2025年6月9日(月)号

経済3団体合同常任委員会=関税交渉の不透明感と景気減速に懸念

 商業、工業、銀行の経済3団体合同常任委員会(JSCCIB)は6月4日の月例会見[=写真]で、タイと米国の関税協議について、交渉のタイムフレームが依然として不透明で、地政学的な問題とも結びついてリスクが高まっているとの懸念を表明した。米国による相互関税の90日間の猶予期間が7月8日に終了することから、事態の進展が急がれるとしている。


 世界経済は減速の兆しを見せており、不確実性が高まっている。米国による関税措置が同国での法的審査の過程にあることが背景にある。米国は鉄鋼とアルミニウムに対するセクター別関税(sectoral tariff)を25%から50%に引き上げた。一方で、米国と中国、英国、欧州連合(EU)との貿易交渉は進展しており、貿易戦争における緊張を一部和らげる要因となっている。
 タイ経済の成長の勢いは鈍化している。今年第1四半期の経済成長率は前年同期比で3.1%となったが、一部は政府投資が前年の低いベース値との比較だった一時的な要因によるものとなっている。JSCCIBによると、これら一時的な要因を除けば、実質的な成長率は約2.1%にとどまっている。民間消費は減速し、民間投資は引き続き縮小傾向にある。また、中国人観光客数も減少している。輸出は前年同期比で15%以上の高い成長を記録したが、製造業の活性化にはつながっていない。製造業の成長率は0.6%にとどまり、大部分が在庫からの輸出で、企業は在庫の減少に対し、新たな生産で補う動きを見せていない。
 今年通年の経済成長率は、従来予測を下回りそうで、1.5〜2.0%成長にとどまる可能性が高い。年後半にかけての輸出と民間投資の鈍化を反映させたもので、経済成長を2.0%まで押し上げるには、明確な目的を持ち、経済刺激効果の高い政策的な介入が必要だと指摘した。経済刺激予算1570億バーツのうち少なくとも70%の予算を速やかに消化するよう求めている。
 また、中国人観光客の減少を補うため、年初から約17.0%増加している長距離圏の観光市場の拡大を急ぐ必要があり、観光客に対する安全面の信頼構築が求められるとした。
 年前半の経済成長率は前年同期比でおおむね3.0%程度に達すると見込まれているが、年後半の経済成長率は前年比1%を下回る可能性が高い。ただし主に米国とタイの関税交渉の結果次第で、また競合国との比較、さらには中国からの輸入品の増加傾向にも左右される。これらの動向は、国内のビジネスや雇用に広範な影響を及ぼすおそれがあるため、政府による短期的な対策は、中長期的な構造的課題への対応へと継続的かつ体系的な視点で見直されるべきだと指摘した。
 また、こうした政策は高まる不確実性に対応するため、柔軟性を備えたものでなければならず、特に、輸出に依存する企業への支援策を講じるとともに、品質基準の適正化と税関での厳格な検査によって、輸入品の過剰流入を防ぐよう求めた。他国による不正な原産地証明の利用を通じた輸出行為の防止にも取り組むよう求めた。特に現地部品調達の割合が低い製品による再輸出の問題に懸念を示している。輸出全体が高い成長を示していても、それに伴って輸入も増えており、国内の製造業、消費、民間投資がそれに見合って拡大していないことから、輸出が実体経済に対して十分な貢献をしていないと指摘した。
 輸出と輸入の関連性に関するデータや構造的な分析が不足しており、経済の実態を深く理解するための基盤が整っていない。再輸出の実態を具体的に把握し、効果的に対策を講じるためには、輸出入の連動性を強化する情報インフラの整備が重要だとしている。
 JSCCIBは、債務リストラ支援策の「あなたは闘い、私たちは助ける」フェーズ1の登録期間延長(6月30日まで)を支持するとともに、フェーズ2では、支援対象となる債務者の資格条件を緩和する方針に賛同している。滞納歴の条件緩和や、一括返済による債務整理策の対象拡大などを求めている。また、3年間の支援終了後に債務者が自立できるよう、持続的な収入の確保や社会保障の強化など、より根本的な対策もあわせて講じる必要があると強調した。
 会合では急速に進むバーツ高についても懸念を示した。最近の為替相場は1ドル=32.5~32.7バーツの水準で推移しており、ベトナム、シンガポール、中国など近隣諸国の通貨と比較しても高く、企業の国際競争力を損なう水準に達している。為替レートの過度な変動やバーツ高を抑制するような政策的配慮と、企業が迅速に対応できるよう積極的な情報発信を行なうことの重要性を指摘した。バーツ高により輸入コストが下がっているエネルギーや農業資材などの恩恵を、製造業や国民生活に的確に波及させる仕組みの整備も求めた。
 この日の会合では、タイ経済の減速、貿易戦争による圧力、外国からの安価な商品の流入といった複合的な要因により、タイの事業者、特に中小企業の競争力が低下し、資金繰りに難を抱えている現状に深い懸念を示した。これを踏まえ、事業者の負担軽減策の一環として、電力保証金の減額を検討するよう提案した。
 現在、中規模事業(区分3)、大規模事業(区分4)、ホテル・賃貸業などの特定事業(区分5)の各事業者は、電力使用に対して総額3000億バーツ以上の保証金を支払っており、これが企業の流動性を圧迫している。JSCCIBは、保証金の基準を、電力料金を期限通りに支払っている事業者については、0.8倍から、さらに引き下げて0.5倍とするよう求めた。電力料金の支払いに遅延がある事業者については、適切な割合で保証金の引き上げを検討する余地も残すべきとしている。

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