2025年7月11日(金)号

中国人観光客がタイ離れ=競合国への流出鮮明に

 タイの観光業の苦戦が伝えられるなか、アセアン域内における観光客の争奪戦が激しさを増している。今年第1四半期(1~3月)にタイを訪れた中国人観光客は130万人で、前年同期比24%減となり、初めてベトナム訪問数(160万人)を下回った。昨年通年では、ベトナムを訪れた中国人観光客はタイの半分にとどまっていた。タイで中国人の著名俳優が失踪した事件や、3月の地震などが相次ぎ、中国人社会でタイ旅行の安全性に対する不安が広がったことに加え、ベトナムが観光客誘致に本腰を入れたこと、また中国から近く費用も抑えられるという立地面での優位性も影響しているとみられる。
 ベトナムの勢いは5月に入っても続いており、中国人観光客数は35万7907人に達した。外国人観光客全体の約4割を占め、2022年3月以降で初めて韓国人を抜き最多となった。
 アジアトラベル社のウィエン・ティエン・ダットCEOは、ベトナムにおける中国人観光客の急増は政府と民間の協働による誘致戦略の成果と説明。各種キャンペーンの展開に加え、4月末にホーチミン~西安線が就航するなど、直航便も増えている。
 海水浴を楽しめる海岸が海南島程度に限られる中国では、ビーチリゾートを目的とする観光客の多くが東南アジア諸国に目を向けており、特にタイとベトナムが人気を集めている。中国経済の減速により、旅行者の支出が抑えられる傾向が強まる中、より安価に旅行できるベトナムに流れる動きが目立っているという。
 一方でベトナムの観光業界では、より高級志向の旅行を提供する観光立国を目指すべきとの意見も強まっており、近年は北京や上海などの高所得層をターゲットにした販売戦略が目立ってきている。姉妹都市提携、ビザ相互免除措置、QRコードによる国際決済の導入も追い風となっている。
 今年第1四半期に東南アジアで最も多くの外国人観光客を受け入れた国は、タイ(950万人)でもベトナム(600万人)でもなく、1010万人(前年同期比22%増)を受け入れたマレーシアだった。国別ではシンガポール人による訪問数が490万人と最多で、これに110万人の中国人とインドネシア人が続いた。
 マレーシアは、中国人に対するビザ免除措置を5年間延長しており、さらに2036年まで延長する案も浮上している。インドネシア人に対しても、すでに2026年までの延長措置が導入されている。アジアの人口大国であるこの2か国からの観光客を積極的に増やそうという、マレーシア観光当局の明確な意図がうかがえる。
 デジタルビザの発給や航空便の充実、空港当局と観光業界との連携強化なども、観光客増の要因となっている。
 アナリストらは、ビザ免除措置がもたらす観光客誘致効果を重視しており、特に従来から依存度が高かった中国人観光客に対して、アセアン諸国が競うように同措置を導入していることが、この時期のアセアン観光の成長と密接に関係していると指摘する。
 シンガポールもこうした国の一つで、昨年同国を訪れた外国人観光客は1360万人に上った。中国はその中でトップ3に入る国となっており、元々文化圏が近い両国では相互訪問が活発だったが、近年は直航便の増加などを背景にさらにその傾向が強まっている。
 タイ旅行代理店協会(ATTA)のタナポン・チーワラタナポン会長とシティワット・チーワラタナポン名誉会長は、タイの観光業界が置かれた厳しい状況について、「今年は現状維持を図ることを優先すべき」と口を揃え、政府に早急な観光活性化措置の導入を求めた。このままでは前年実績の3500万人を維持するのは困難との見方を示している。
 タイ・ホテル協会(THA)のティアンプラシット・チャイパタラノン会長[=写真]は、今年の外国人観光客数が目標割れの3400万人にとどまるとの見通しを示し、中国人観光客の回復が遅れるなかでは「この水準でもまずまずとすべき」との見解を示した。そのうえで、治安に対する観光客の不安を払拭するような措置の導入を政府に求めたほか、93か国に対するビザ免除措置についても不法就労を抑止するため、滞在許可日数を60日までとするなど、実態に即した措置の導入を提言した。


 デュシタニ・グループのスパチー・スタムパンCEOは、旅行先の選択肢が世界的に増えるなかで、アセアン域内でもベトナムやフィリピンなどがタイの競争相手になっていると指摘する。ヘルス・ツーリズムやMICE需要を喚起することで観光客の平均滞在日数を伸ばすとともに、グルメ・ツーリズムやワーケーション需要の取り込みも重要になるとの認識を示した。
 アセット・ワールド社(AWC)のワラパー・トライソーラット社長兼CEOは、ジュラシック・ワールドとの提携によりアジアティークへの観光客誘致に14億バーツを投じ、7月に大規模なイベントを開催する構想を明らかにした。「観光は依然としてタイの重要産業であり、世界中から観光客を集める努力をさらに強化していかなければならない」と述べた。
 今年1〜5月の外国人観光客数を日本、タイ、ベトナムの3か国で比較すると、日本とベトナムは前年同期比で20%以上の増加となった一方、タイは3%減となった。同期間に日本を訪れた外国人は23.9%増の1814万人。国・地域別では韓国が405万人(8.4%増)でトップ、次いで中国の392万人(62.9%増)、台湾の269万人(12.3%増)、米国の135万人(29.6%増)、香港の110万人(7.7%増)となっている。
 ベトナムを訪れた外国人は21.3%増の920万人で、国・地域別では中国が236万人(47.2%増)、韓国が190万人(2.4%減)、台湾が53万2897人(0.6%増)、米国が37万5417人(7.2%増)、日本が34万2156人(18.3%増)だった。
 タイを訪れた外国人は1436万人で2.7%減。国・地域別では中国が195万人でトップだったが、前年同期比では32.71%の大幅減となった。2位以下はマレーシアの190万人(5.51%減)、インドの97万8600人(16.18%増)、ロシアの96万1143人(13.27%増)、韓国の67万3563人(16.17%減)となっている。
 観光スポーツ省の最新統計によれば、1〜6月の外国人観光客数は前年同期比4.66%減の1668万5466人。国・地域別ではマレーシアが中国を抜いて229万9897人で最多となったが、前年同期比では5.58%減だった。2位は中国の226万5556人で同34.13%減。3位以下はインド人の118万3899人(13.82%増)、ロシア人の103万4759人(12.35%増)、韓国人の77万2107人(17.42%減)だった。

その他のニュース
[経済ニュース]

消費者信頼感、5か月連続で低下=28カ月ぶりの低水準に

ソフトパワーで経済再構築=文化相がフォーラムで講演

米関税で輸出激減の懸念=荷主評議会が実効策求める

トヨタ・オート・ワークス=「コミューター」生産10万台達成

トンブリ・ヘルスケアにRAMが出資=経営刷新と業績改善へ転機

スズキ自動車タイ=アフターサービス網を強化

PTTと英セントリカ=LNG供給で合意

全国の貸工場の入居率92.7%=EECエリア中心に需要増

[政治・社会ニュース]
カジノ法案を政府が取り下げ=国会審議での否決リスク考慮か

タクシン氏が講演=「ソフトパワー」ロードマップ

コールセンター詐欺団=最長禁錮24年の一審判決

詐欺組織にビル提供の疑い=ポイペトのカジノ経営者に逮捕状

珍種「パンダガニ」を確認=ペチャブリ県の滝付近で

[トピックス]
電子回路展示会「THECA2025」=タイを世界のPCB生産拠点に

[企業紹介]
PTTエクスプロレーション&プロダクション=エネルギー自立の歩みと天然ガス主軸の未来戦略

[レポート]
25年第1四半期の社会状況=消費者保護

[BOI認可事業]
5月27日認可10事業

あわせて読みたい
無料トライアル 【無料トライアルのご案内】 タイ経済パブリッシングは毎日(土日祝を除く)、A4サイズのPDF版ニュースレターを定期購読者様にメール配信しております。 購読料金...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次