銀行融資が4四半期連続マイナス=不良債権はなお増加傾向
タイ中央銀行は、商業銀行の貸出残高が4四半期連続でマイナスとなり、信用収縮が長期化していることに懸念を示した。銀行が与信審査を厳格化する一方、企業は債務の返済を急ぎ、世帯所得5万バーツ超の高所得層も消費を抑え、将来リスクに備えて債務の削減を優先している。中銀は不良債権が依然として増加傾向にあり、特に中小企業で深刻化していることを指摘。大企業でも業績悪化の影響で延滞債務の比率が上昇し、経済全体の脆弱性が増しているとの警戒感を示した。
中銀が8月19日に発表した第2四半期(4~6月)の商業銀行業績によると、銀行システムは自己資本、引当金、流動性が高水準にあり、総じて安定性は維持している。ただし貸出残高が縮小し続けていることが最も憂慮すべき点で、4四半期連続で前年同期比マイナスとなり、長期にわたる収縮局面にある。企業による債務返済行動に加え、高所得層世帯が支出を控える動きが重なった結果と分析される。
スワニー・ジェサダーサック金融機関監督担当総裁補[=写真]は、商業銀行の融資が前四半期比で減少を続けており、過去に例の少ない長期のマイナス状態にあると述べた。今後の企業活動や家計への影響を通じ、経済全体にリスクをもたらす可能性があると警告した。

商業銀行と系列会社を含めた与信残高は第2四半期も減少し、前四半期比0.9%減となった。第1四半期は1.3%減で、減少幅は縮小したものの、依然として融資の縮小傾向が続く。主因は中小企業向けと消費者向け融資の減少で、信用リスクが高止まりしている。一方で、大企業向け融資は引き続き拡大した。
事業融資は0.1%減となった。前四半期の0.8%減からではマイナス幅は縮小したが、減少傾向は続いている。中小企業向け融資は、全業種でマイナスが続き、銀行は慎重な姿勢を崩していない。融資は、返済履歴が良く、十分な担保を持つ顧客に重点が置かれ、新規顧客は資金調達が難しい状況だ。
消費者向け貸付も前の四半期に続き減少した。特に自動車ローンは9.7%減となった。ただし、第2四半期には新車販売が前年の四半期平均を上回り、第1四半期以降は差し押さえ件数も減少しており、中古車価格には改善の兆しがみえている。
カードローンは1.9%減とマイナスが続いた。カード利用額の減少が理由で、特に月収5万バーツ超の高所得層で顕著だった。個人ローンも小幅ながら減少し、特に自動車登録書担保ローン(カータイトルローン)や高リスク顧客向けローンなど過去に急拡大した分野が縮小した。
融資が減速している遠因は、2020~21年の新型コロナ危機時にGDPが落ち込むなかで、資金需要が高水準にあったことによる債務の膨張がある。その後、資金需要は低下しており、中銀は融資のマイナス傾向が今後もしばらく続くとの見方を示している。危機時に脆弱性が積み上がったことで、資金調達は一段と難しくなっている。さらに、企業や家計が当面の収入不足に備えて債務の返済を急いでいることも与信残高を押し下げている。
スワニー氏は、「過去に積み上がった債務の調整過程とみられるが、中小企業が懸念だ。中小企業向け融資はマイナスが続き、不良債権は増加が続く。伸び率は鈍化しているが、競争激化による輸入品の影響や、米国の通商政策による輸出への打撃など、リスク要因は残る」と指摘した。
月収5万バーツ超の高所得層ではクレジットカード利用額の減少が認められる。経済の脆弱性が高まるなか、消費に対する慎重姿勢が強まっている。中銀は現時点でこの層の延滞債務や不良債権に顕著な増加はみられないとしているが、動向を注視する必要があるとしている。スワニー氏は、返済の増加は銀行側の慎重姿勢だけではなく、企業や高所得層が自ら財務負担を軽くする動きだと指摘する。過去に融資が4四半期連続で収縮した例はある。債務水準が高いとショック時に資本が不足するリスクがあるため、企業は負債自己資本倍率(D/E)の圧縮に動いていると説明した。
銀行システム全体の不良債権比率は第2四半期に2.91%と、小幅上昇した。前の四半期は2.90%だった。主因は事業融資で、とりわけ再三の支援を受けながらも最終的に立て直しに至らなかった中小企業向け融資が焦げ付いた。一方、住宅ローン、クレジットカード、個人ローン、自動車ローンを含む消費者向け貸付の不良債権は軒並み減少した。延滞債務だが90日以内にとどまる要注意債権(SML)も、大半の融資ポートフォリオで縮小した。ただし、貸出規模5億バーツ超の大企業向け融資ではSMLが増加した。顧客企業の業績が悪化したため、金融機関が信用格付けを引き下げた結果であり、延滞実態によるものではない。今後、トランプ関税の影響で輸出やサプライチェーン関連の顧客に打撃が出る可能性があり、不良債権はなお増加傾向が続くものの管理可能な水準であることを強調した。一方、消費者向け貸付のSMLが減少したのは、債務リストラ後に条件を履行できる借り手が増えたことによる。
銀行システム全体の業績は前四半期比で改善した。季節要因による子会社からの配当収入など、非金利収入の増加によるところが大きい。純金利収入は貸出残高と金利水準の低下、さらに「あなたは闘い、私たちは助ける」と呼ばれる債務者援助策の影響から縮小した。純金利マージン(NIM)は2.80%から2.72%に低下した。低下幅は銀行ごとに異なり、固定金利比率の高い自動車ローン中心の銀行は影響が限定的で、変動金利商品への依存度の高い銀行は打撃を受けやすい。総資産利益率(ROA)、自己資本利益率(ROE)は配当収入増を背景にやや改善した。
8月13日の金融政策委員会(MPC)による利下げについては、変動金利に連動する負債を抱える債務者の負担軽減につながるとの見方を示した。特に中小企業の債務の約7割が変動金利であることから、既存債務の利払い軽減効果が期待されている。
ただし、新規融資については金利よりも信用リスクの上昇に伴う「借りにくさ」が課題。銀行は引当金負担の増加を背景に融資姿勢を一段と慎重にしている。中銀は財務省や民間と協議を重ね、将来的に必要となる可能性のある債務者支援策を検討している。
これまでの債務者援助策で、支援対象は継続的に拡大している。「あなたは闘い、私たちは助ける」第2弾も7月初旬に開始され、対象となる債務者は370万人、債務額にして1兆2千億バーツに拡大した。170万人が登録を完了し、220万口座を占める。銀行による資格審査の結果、参加が認められたのは74万人で、適格者全体の2割に当たる。債務額は5300億バーツ、債務総額の4.4%にあたる。
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