住宅市場に回復の兆し=与信持ち直し、政策効果じわり
不動産情報センター(REIC)は、物件譲渡・抵当登記手数料の0.01%への引き下げ、住宅ローンの頭金規制(LTVルール)の緩和、金利引き下げなどが不動産部門にプラスの影響を与え始めていると指摘した。今年第4四半期には全国の住宅物件引渡件数が前四半期比13.1%増、一般個人向け新規住宅ローン与信額は9.5%増となる見通しを示した。
カモンポップ・ウィーラパラ所長代行[=写真]は、第3四半期の住宅市場について「需要面では前四半期から引き続き回復の兆しがみられ、政府による700万バーツ以下の住宅向け譲渡・抵当登記手数料引き下げ措置と政策金利の引き下げが寄与した」と述べた。供給サイドも消費者の購買力に合わせて価格調整を進めているという。

第3四半期の全国全セグメントの総引渡件数は8万4397件で、前四半期比9.1%増、引渡額は2261億6600万バーツで7.7%増となった。内訳は低層住宅が5万7581件(6.7%増)、引渡額1640億6000万バーツ(4.7%増)、コンドミニアムが2万6816件(14.8%増)、引渡額621億600万バーツ(16.4%増)。価格帯別では100万バーツ未満の新規建設住宅が37%増、501万〜750万バーツの中古住宅が14.1%増となった。
ただし1〜9月の3四半期累計では、全国の引渡件数は22万7106件で前年同期比9.3%減、引渡額も6177億6800万バーツで12.4%減となり、購買力の本格回復には至っていない。低層住宅は15万5125件(7.3%減)、金額は4463億900万バーツ(9.4%減)、コンドミニアムは7万1991件(13.3%減)、金額1714億5800万バーツ(19.3%減)だった。
立地別では第3四半期の引渡額が大きかったのは、バンコク、チョンブリ、サムットプラカン、ノンタブリ、パトゥムタニ、プーケット、チェンマイ、ラヨン、ナコンラチャシマ、コンケン。前年同期比で件数・金額とも伸びが大きかったのはプーケット、ラヨン、ナコンラチャシマの3県で、1〜9月累計でも増加を記録したのはこの3県のみとなった。
外国人向けコンドミニアム引渡しは、第3四半期に3844戸で前年同期比2.3%増だが、引渡額は153億7800万バーツで17.2%減となった。国・地域別トップ3は中国、台湾、ミャンマー。中国人への引渡件数は1335件で11.8%減、引渡額は45億7300万バーツで34.6%減と減少傾向が続く。台湾は件数376件(31.5%増)、金額18億4400万バーツ(17.1%増)、ミャンマーは517件(25.5%増)、15億5000万バーツ(30.3%減)だった。
住宅ローンでは、第3四半期の新規与信額は1468億3400万バーツで前四半期比9.5%増。一方、1〜9月累計は3903億1700万バーツで6.6%減となった。
カモンポップ所長代行は、「クイックビッグウィン」政策に基づく国内消費活性化、観光活性化、所得税控除による観光支援、家計債務問題対策としての整理回収会社(AMC)設立、政府支出の加速、クリーンエネルギープロジェクト、不良債権リストラ、中小企業支援策などが不動産市場と経済全体にプラスに働くとの見方を示した。
第4四半期は全国の住宅引渡件数が9万5484件で13.1%増、引渡額は2556億3200万バーツで13%増となる見通し。新規住宅ローン与信額は1607億7500万バーツで、第3四半期比9.5%増を見込む。
通年では全国の住宅引渡件数は32万2500件で前年比7.3%減、金額は約8734億バーツで10.9%減となるが、当初予測より減少幅は縮小する見通し。2026年は引渡件数32万200件で0.7%減、金額約8662億バーツで0.8%減にとどまると予測する。新規住宅ローン与信額は今年5510億9200万バーツ(5.8%減)、2026年5475億3300万バーツ(0.6%減)となる見込みだ。
業界は税制措置の延長を要望
不動産開発業者が政府に財政・税制支援策の迅速な実施を繰り返し求めている。不動産セクターは過去20年で最低の成長率に落ち込む見通しだと指摘する。
タイ商業会議所(TCC)不動産開発委員会のイサラ・ブンヨン委員長によれば、2025年の不動産市場における主要指標は過去数年で最も低い水準に落ち込んでいる。新規プロジェクトの立ち上げ件数は過去20年で最少となり、物件の引き渡し件数も過去10年で最低水準だ。一方、住宅ローンは過去8〜9年で最も低いレベルにある。
イサラ氏は、不動産セクターを現在支えている措置として、タイ中央銀行による住宅ローン頭金規制(LTVルース)の緩和と、抵当登記および登記手数料の一時引き下げ(通常1%と2%を0.01%へ削減)を挙げた。しかし、これらの措置は来年6月に期限を迎える。
民間セクターは、この時期が新政府への移行期と重なることを懸念しており、措置の延長が遅れる可能性があると指摘する。デベロッパーらは現政権に対し延長の迅速化を強く求めている。「不動産は川上から川下までサプライチェーン全体と結び付いているため不動産業の問題は不動産セクターだけでなく国全体の経済に関わる」と訴えた。
さらにイサラ氏は、内務省に対し住宅種別ごとに定められた土地面積要件の見直しを求めている。居住環境の質を確保しつつ区画面積を縮小するよう提案した。戸建て住宅の最低区画面積を50平方ワーから35平方ワーへ、ツインハウスを35平方ワーから28平方ワーへ、タウンホームを16平方ワーから14平方ワーへ引き下げる案で、都市部で住宅を求める人がより手頃な価格の住宅にアクセスできるようにする狙いがある。
住宅事業協会のスントーン・サターポン会長は、2025年は不動産セクターにとって3年連続の減少となり、販売は過去10年で最低水準に落ち込むと述べた。今年の販売件数は32万戸に落ち込み、昨年の34万戸から減少する見込み。住宅ローンも最低水準にあり、年間7000億〜8000億バーツだった規模が今年は約5000億バーツへ縮小している。このうち約2400億バーツは政府住宅銀行が占め、残りが商業銀行によるものだ。全国の建築許可面積は今年1350万㎡まで落ち込む見通しで、戸数に換算すると10万戸に相当し、過去15年で最も低い水準。
「今年のローン却下率は申請全体のほぼ半数に達する。コロナ前の却下率は5〜10%にすぎなかった」とスントーン氏は指摘する。抵当設定と登記手数料の引き下げは700万バーツ以下の物件に適用されているが、スントーン氏は手数料減免を全ての物件に拡大し、700万バーツを超える部分にのみ通常の手数料率を適用する案を提示した。
さらに、タイ信用保証公社(TCG)が住宅ローンに対して保証を提供することも提案した。TCGは商用不動産への保証を検討しているが、スントーン氏は保証範囲を住宅にも拡大し、各ローンの最低20%を保証すべきと訴える。近年多くの若者がYouTuberなど固定給や給与明細を持たず独立して働いているため、年収が高くても金融機関に却下される事例が増えていると指摘した。
クレジットカード、家電ローン、車のローンなど多重債務を抱える住宅ローンの借り手に対し、政府が支援し、住宅を担保に債務を一本化する仕組みの導入を提案した。住宅ローンの金利は他のローンより低いため、借り手の利息負担軽減につながる。
スントーン氏は中銀の金融政策委員会(MPC)に政策金利の引き下げを求め、商業銀行もそれに追随すべきと主張した。さらに、外国人の居住目的での投資を呼び込むため、「リースホールド資産」契約の最大リース期間を30年から60年に延長する案を支持し、このモデルでは物件所有権がタイ人に残る点を強調した。
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