「アジアの病人」脱却へ=新政権に構造改革圧力
近く発足予定のアヌティン新政権は、タイが経済の健全性を回復させるため、大規模な構造改革の実施を求められている。「アジアの病人」とのレッテルを貼られたことで、慢性的疾患を引き起こしている構造的問題に取り組むよう突き付けられている。新政権は現政権と同様の構成になると予想され、民間企業部門は構造改革の面で、国を快復させることができるのか疑問視している。
◆政治主導の人事に強い懸念
タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ・ティアンヌクン会長[=写真]は、新政権が閣僚の選定を党派割当てに基づいて行なうのであれば、タイは「病人」から「死人」になる危険があると述べた。プームチャイタイ党主導の連立政権のもとでタイ経済を立て直すことができるのか、民間は強い懸念を抱いていると語った。政党間の交渉は、アヌティン氏を首相として支持する見返りに、どの政党がいくつ、どの閣僚ポストを得るかに基づいて進められているようにみえる苦言を呈した。

報道によれば、プームチャイタイ党はプアタイ党と複数の小政党と手を組む見通し。連立に加わる政党が希望する省庁を監督できるよう、半年ごとに内閣改造が行われる可能性もあるが、クリアンクライ氏は「受け入れられない」とし、「その政治モデルは政治家の欲求を満たすが、国の経済の病を治療するものではない」と指摘した。
海外メディアは、タイを「アジアの病人」と呼び、経済成長を長年阻んできた一連の経済問題に対処するための緊急の改革の必要性を強調している。クリアンクライ氏は、「病気を治療し、継続的なケアを提供できる熟練した医師が必要だ。医師を頻繁に替えれば、病人は死んでしまう」と述べた。民間は、複雑な経済問題に根本から取り組むため、専門性と能力を備えた経済チームを求めている。
国際通貨基金(IMF)、世界銀行、商業・工業・銀行合同常任委員会(JSCCIB)はいずれも、今年のタイ経済を厳しいと見通している。クリアンクライ氏は、「時間との競争だ。経済回復の取り組みを急がなければならない」と主張する。「民間は政治的安定を望んでいる。それには中断なく職務を継続できる閣僚チームが必要だ」と述べた。
◆構造改革と競争力強化の必要性
タイ荷主評議会(TNSC)のタナコーン・カセートスワン会長は、「アジアの病人」という呼称は、構造的経済課題に対する警告シグナルであるが、タイに潜在力がないことを意味するものではないと指摘する。「タイは依然として強固な生産拠点であり、インフラも十分に整備されている。輸出は経済成長の重要な原動力だ」と述べた。
タイは、低成長、近隣諸国に対する競争力の低下、高水準の家計債務、高齢化社会、政策の不確実性といった重大な課題に直面している。タナコーン氏は、これらの構造的問題に直ちに対処しなければ、悲観的な認識が定着しかねないと警告する。
新政権にはこれらの構造問題に取り組むことで国を救う機会がある。短期的な景気刺激策に集中すべきではなく、信頼の回復と政策の安定、規制改革、企業の運営コスト削減、技術導入と人材育成による生産性の向上、良好なガバナンスと透明性に重点を置くべきだと述べた。「予測可能で公正な制度は、新たな投資を呼び込み競争力を高めるうえで極めて重要だ」と指摘した。
TNSCは、経済に寄与するいくつかの政策を挙げる。物流インフラの整備、国内外の企業による投資の促進、地方経済発展のための権限分散、法的障壁を減らすための手続きの簡素化を求めている。外国直接投資(FDI)は経済を前進させるうえで不可欠だが、タナコーン氏は、事業拡張や技術の高度化、イノベーション開発を目指すタイ企業にも外資に提供されるのと同等の恩恵と支援が与えられるべきだと指摘する。新たな政策は、国内のサプライチェーンを強化し、技術移転を促し、中小企業をバリューチェーンに統合し、既存企業と新規参入企業の間で公平な政策の実施を確保すべきだとしている。「国の競争力は資本流入だけでなく、タイ経済そのものの強さにも依存する」と指摘した。
TNSCは、新政権に協力してタイの輸出やその他産業を強固で均衡が取れ、持続可能な成長へ導く用意があるとした。「海外からの批判に反論することではなく、タイが本来の成長ポテンシャルを取り戻し、世界の舞台で確固として競争できるようにすることが重要だ」と述べた。
◆成長回復の課題と域内競争
キアットナーキン・パトラ・フィナンシャル・グループのチーフエコノミストのピパット・ルアンナルミットチャイ氏は、タイ経済について、集中治療室を出た患者のようなものだが、国の長期的な成長ポテンシャルを強化するためには構造改革が必要で、完全には快復していないと述べた。
国家経済社会開発評議会(NESDC)は、2025年第4四半期の経済成長が予想を上回ったと報告したが、タイの成長率は依然として域内諸国に遅れを取っている。昨年第4四半期、タイ経済は前年同期比2.5%成長し、前の四半期の1.2%から回復し、市場の予想を上回った。昨年通年の成長率は2.4%となり、2.0~2.2%の予測を上回った。
しかし同じ四半期に、台湾のGDPはAI・半導体への強い海外需要を背景に12%超成長した。シンガポールは6.9%、ベトナムは8.0%、マレーシアは6.3%成長し、地域全体が概して堅調な四半期となった。これに対し、タイは成長率をせいぜい2%超に引き上げるために大規模な財政支援を必要としており、構造的弱点と競争力の課題が浮き彫りになっている。ピパット氏は、「財務相はタイ経済がICUを出たと述べたが、まだ退院はしていない。経済成長を本来の潜在力に戻すにはリハビリが必要だ」と述べている。
同氏によると、昨年第4四半期の回復の主な原動力は投資、とりわけ政府投資だった。政府は最終四半期に支出を加速させ、政府投資を13.3%押し上げた。この急増は建設活動を11.2%引き上げ、より急激な減速から経済を下支えした。民間投資も勢いを増し、機械・設備輸入が増加した。
しかし政府が支出を加速させ続けることはできない。中期財政枠組みのもとで、財務省は今後数年間で財政赤字を削減し、歳出の伸びを抑制すると約束している。財政余地が限られるなか、政府支出による押し上げ効果は今後の四半期で薄れる可能性が高い。
根深い構造問題と高まる経済の逆風を踏まえ、タイの長期的成長ポテンシャルを引き上げるためには包括的な改革が必要だ。ピパット氏は、公的部門の効率向上、徴税ベースの拡大、投資を支援する規制の簡素化、時代遅れの法律の見直し、汚職対策、農業の競争力の強化、法の支配の強化が必要だと指摘している。さらに、教育改革と人材訓練、とりわけAIの急速な導入に備えることは、生産性と競争力を引き上げるうえで極めて重要だと指摘した。
投資信託協会(AIMC)のチャウィンダー・ハンラタナクン会長は、政治的安定の高まりとともに投資家の信頼感が改善しており、市場は現在、新政権からの政策の明確性を待っていると述べた。近年築かれてきた改革や経済基盤が損なわれないようにするには、政策の継続性が極めて重要だという。
資本流入は、とりわけデータセンタープロジェクトで顕著だ。チャウィンダー氏は、強固なインフラ、特に信頼性の高い電力と水供給において競争優位を有しているとした。
機関投資家は近年見られなかった規模の海外投資マネーの流入から楽観的な見方を強めている。資本流入の一部に短期的な投機が含まれるものの、最近の傾向は相当部分が長期的ポジションを目的とした投資であることを示しているという。「政府が明確で投資家に配慮した政策を実行すれば、本物の長期資本が追随する」と述べた。
企業収益の成長は、民間部門と政策当局の双方が築いてきた基盤に支えられている。タイ証券取引所(SET)のアサデート・コンシリ所長は、投資委員会(BOI)を通じた投資申請が過去最高水準に達し、政府の安定と密接に結びついた信頼感の回復を反映していると述べている。「重要なのは、投資申請を実際のプロジェクト、実際の雇用、そして実際の経済循環へと転換することだ」と指摘した。BOI認可プロジェクトの投資が近い将来に実現すれば、タイはより広範な経済の回復と域内諸国に匹敵する成長を実現する可能性があるとした。
アサデート氏は、「タイは、確立されたサプライチェーン、地理的優位、法的安定、世界的に競争力のある観光産業など、数十年にわたり築かれた構造的強みを保持しており、経済の回復を支える」と述べた。政策の明確性と効果的な実行が伴えば、タイは再び高まった外資の関心を持続的な経済のモメンタム(勢い)へと転換し、長年の低迷国というレッテルを脱する可能性があると付け加えた。
◆ベトナムの台頭と迫る逆転リスク
経済評論家のアット・ピサンワニット氏は、タイが経済の改革に着手しない限り、ベトナムは2年以内にタイに追いつく可能性が高いと警告している。タイのGDPが約5000億㌦であるのに対し、ベトナムはすでに4000億㌦を超えている。FDIと輸出額はいずれもベトナムの方が大きい。
教育の質でも、ホーチミン市経済大学は世界トップ500にランクされ、チュラロンコン大学と同水準にある。ベトナムは高品質の大学数こそタイより少ないものの、今後5年以内に自国の大学を世界トップ300に押し上げることを目指している。ベトナムはまた、タイの6600万人に対し、約1億人と、大きな人口規模を有している。
アット氏は、タイが経済問題に対処するには、景気刺激策と、農業や輸出競争力といった根本原因に対処するための構造改革という2つの並行したアプローチが必要だと述べている。この戦略にはまた、汚職への対処と、能力ある人材を選んで職務に就けるという公務員制度改革も必要だと指摘する。「我々の問題は、政治的不安定に起因する。政権が任期を全うせず、閣僚は所管分野に関する知識を欠き、政策は国の真のニーズに応えていない。横行する汚職もまた障害だ」と述べた。
ポピュリズム政策が長期間にわあたって使用されてきたことと、タイの構造的経済問題が相まって、タイは「アジアの病人」と呼ばれるに至ったと分析した。アット氏は、政治家も国民も、タイが長年にわたり慢性的な病人であったという事実を認識していないことが問題で、遠からず、タイはアセアン原加盟国の中で最下位に転落する可能性があると警告した。
1997年の金融危機は現在よりも深刻だったが、当時のタイは深刻な構造的問題には直面していなかった。1997年当時、生産拠点としての実質的な競合相手はいなかったが、今では、ベトナムやインドネシアが主要な競争相手となり、中国からの安価な製品が国内市場にあふれている。
タイの競争力が低下するなか、出生率の低下と高齢人口の増加により労働力は減少している。タイは高齢社会となり、高齢者は1300万人に達し、これが労働力人口の規模を縮小させ、国内消費を弱めている。それにもかかわらず、政党や国民は依然としてタイの慢性的な問題を認識しておらず、ポピュリズム政策が繰り返し喧伝され、国民もそれを称賛し受け入れている。
アット氏は、すべての政党が給付金や農産物価格への介入を競い合っているが、競争力を高めるためにテクノロジーとイノベーションを活用しようとする真摯な試みはないと指摘した。これとは対照的に、ベトナムは農業部門における競争力を向上させ、公務員制度をよりコンパクトにすることで改革を進め、公共支出を削減してきた。
東部経済回廊(EEC)はプラユット政権下で開始されたが、このプロジェクトに対する投資家の関心は芳しくない。アット氏は、この冷めた反応の理由として、3空港を結ぶ高速鉄道計画がいまだ完成していない点を挙げる。また、レムチャバン港の処理能力は、マレーシアやシンガポールの港湾よりも低い水準にある。
アット氏は、「政治家は本当の問題をみていない。選挙期間中に語るのはコンラクルンや所得保証、農産物価格への介入ばかり。より根深い問題について語らないのは、政治的に売り込みやすいテーマではないからだ」とし、「有権者に語られるのは、作物価格や賃金がどれだけ高くなるか、児童手当があるのか、電気代や水道料金の補助があるのか、といったことばかり。これが、この罠から抜け出すのを非常に困難にしている理由だ。有権者も政治家も、このパラダイムを受け入れている」と指摘した。
カセサート大学のチッタワン・チャナクン経済学講師は、タイ経済の病の根本原因は主として教育の遅れと汚職にあると述べる。同氏によれば、最新のワールド・ポピュレーション・レビューによる各国の教育の質ランキングでは、アセアン域内でシンガポールがトップである一方、タイは8位に位置し、ブルネイ、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシア、さらにはラオスよりも下位にある。トランスペアレンシー・インターナショナルは、シンガポールをアセアンで最も汚職水準が低い国、世界でも3位と評価しているが、タイは116位で、前年の107位から順位を下げ、ベトナム、インドネシア、ラオスよりも下位にある。
チッタワン氏は、「汚職は政府が緊急に対処しなければならない問題。これに取り組まなければ、国が昏睡状態から回復する道はない」と述べた。ベトナムはかつて戦争で荒廃し、多くの分野でタイを大きく下回っていたが、汚職の取り締まりを強化したことにより、現在では教育、汚職、国内安定性の各ランキングでタイを上回っていると指摘した。
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