2026年4月7日(火)号

SCB・EIC=26年の経済成長率予測は1.4%

 サイアム商業銀行のエコノミック・インテリジェンス・センター(SCB・EIC)は3月26日、「2026年第1四半期タイ経済見通し:中東戦争による不確実性下におけるタイ経済の方向性と企業部門の適応」をテーマとする記者会見で、2026年のタイ経済見通しを1.4%へ引き下げた。インフレ率は3.2%へ上昇すると予測した。
 SCB・EICは、中東戦争の影響によりエネルギー価格とコモディティの価格が急騰したことを受け、2026年のタイ経済の成長率見通しを1.4%(従来1.8%)へ引き下げた。ヤンヨン・タイジャルーン・チーフエコノミスト[=写真]によれば、年間平均インフレ率は、タイ中央銀行の目標レンジを上回り、3.2%へと大きく加速する見込み。一方で、国内支出は減速し、とりわけ消費は、エネルギーと食品価格の上昇に伴う家計の購買力と信頼感の低下、ならびに実質労働所得の減少の影響を受ける見通しにある。


 企業部門は、コスト上昇と利益率の低下による圧力を受ける。企業は不確実性の高まりから投資を抑制すると予測される。
 また、経常収支赤字、資本収支赤字、財政赤字の拡大(トリプル・ディフィシット)により、経済の安定性はより脆弱になる。
◆中東戦争は「二方向の危機」へと激化、ベースシナリオでは2か月の長期化も
 中東戦争は、ホルムズ海峡を通過する石油・ガス(世界供給の約20%)の量を大幅に減少させ、その結果、エネルギー価格は極めて急速かつ大幅に上昇している。一方で、中東のエネルギー施設への攻撃は、エネルギー供給の回復に長い時間がかかる可能性に対する市場の懸念を高めている。世界各国が減少し始めているエネルギー備蓄を補うため、追加のエネルギー供給源を確保しようとする必要性も高まっている。このような供給と需要の要因から、たとえ戦争が終結しても、世界のエネルギー価格は短期間では低下しそうにない。
 SCB・EICは、中東危機について3つのシナリオを評価している。
 1)ベースケースでは、対立は2か月以内に終結し、2026年のブレント原油価格は年間平均で1バレル当たり85㌦となる。
 2)悪化ケース(Adverse)では、対立が4か月に及び、エネルギー生産拠点とインフラが大きく破壊される場合、2026年のブレント原油価格は年間平均105㌦となる。
 3)深刻ケース(Severe)では、対立が4か月を超えて長期化し、戦争が拡大して中東の参加国が増加し、生産拠点とエネルギーインフラが大きく破壊される。この場合、ブレント原油価格の年間平均は120㌦に達する可能性がある。
 世界のエネルギー価格の急騰に加え、この戦争は陸上、海上、航空の輸送コストを上昇させ、高い変動をもたらす。このエネルギー危機は、過去のエネルギー危機よりも広範な影響を及ぼす傾向にあり、エネルギーと合成樹脂、肥料、医薬品、金属といった一部重要産業の上流原材料の不足の双方からなる「二方向の危機」へと拡大しつつある。
◆タイ経済は、エネルギー輸入への高い依存、エネルギー利用効率の低さ、もともとの経済の脆弱性により、成長率は1.4%にとどまる可能性がある
 SCB・EICは、エネルギー価格の急上昇により、タイ経済が大きな影響を受けるリスクが高いと評価している。タイは石油・天然ガスの純輸入国であり、その規模はGDPの約8%に達する。また、インフレバスケットに占めるエネルギー商品の比率も約12~13%と高く、さらにエネルギー利用効率も低い。
 戦争の影響により、タイ経済は景気減速とインフレ率の上昇が同時に進行するスタグフレーションに直面することになる。加えて、経常収支、資本収支、財政収支の3つの赤字拡大により、経済の安定性はさらに脆弱化する可能性がある。
 タイ経済への影響の主な伝達経路は以下のとおりである。
 (1)国際貿易部門
 交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)が悪化する影響を受ける。エネルギー価格の上昇により輸入額は大幅に増加する一方、輸出は世界経済の減速や供給の混乱(サプライディスラプション)の影響を受ける。その結果、貿易収支は大きく悪化し、経常収支は赤字に転じる。
 (2)観光部門
 外国人観光客数は全体として減速する見込みである。フライト数の減少傾向、燃料価格の上昇による旅行コストの増加、経済の先行きに対する観光客の懸念による。中東と欧州からの観光客に減少の兆しがみられる一方、中国やインドといった成長余地のある市場が下支えとなる。全体として、SCB・EICは今年の外国人観光客数の予測を3410万人から3320万人へ引き下げた。
 (3)民間消費
 世界のエネルギー価格の上昇に伴う生活費の急騰により減速する。労働市場の脆弱性や高い家計債務といった「経済的な傷跡」を抱える家計の支出回復に追加的な影響を及ぼす。
 (4)企業部門
 生産コストの上昇と原材料不足に直面し、サプライチェーンに影響が及び、利益率を圧迫する。不確実性とコスト上昇により、一部の事業者は新規投資を延期する可能性がある。
 (5)金融市場
 高い変動性に直面し、資本流出によりバーツは急速に下落し、資本収支の赤字が拡大する。そのため、タイ中央銀行は、外貨準備を用いた為替市場への介入を通じて、バーツの過度な下落を抑制する必要が生じる。
 戦争が長期化する状況にあって、SCB・EICは、今年の平均インフレ率はベースシナリオにおいて、タイ中央銀行の目標レンジを上回り、3.2%へ上昇するとみている。これは従来、ほぼ0%に近い水準と予想されていたものである。インフレはまずエネルギーと物流分野から上昇し、その後、生産原材料の不足、包装資材、一般消費財へと波及する。
 もっとも、今後打ち出される政府の措置、とりわけ石油基金のメカニズムについては、借入限度額の引き上げに伴う政府保証を待つ必要がある。また各種支援措置は国内への影響を一定程度緩和するものの、過去のように十分には機能しないだろう。公的債務がGDP比70%の上限に近づいていること、政府が信用格付け引き下げリスクに慎重なこと、さらに税収が経済動向の影響を受ける可能性があるためで、その結果、財政赤字は一層拡大する。
◆金融政策はスタグフレーションという課題に直面している。一方で、エネルギー価格対策については、一律の価格補填・価格固定を避け、消費者の適応を段階的かつ対象を絞って支援することに重点を置くべきである
 金融政策委員会(MPC)は、政策金利を年1%に据え置く見多しにある。SCB・EICは、インフレ率の上昇に対応するための利上げは選択されないと考えている。インフレの主因が供給側にあると判断されるためである。また、需要が低迷していることで、企業は上昇したコストを消費者に十分に転嫁できそうにない。一方、利上げは低成長が続くタイ経済に悪影響を及ぼし、家計と中小企業の高い債務負担による脆弱性を一層強める可能性がある。
 一方で、インフレが政策目標を上回る局面で利下げを行なえば、中央銀行のインフレターゲットに対するコミットメントに対し市場の疑念を招き、バーツの急速な下落を引き起こし、さらなるインフレ圧力をもたらすおそれがある。さらに、すでに低金利環境にあるなかでは、利下げの経済への波及効果は限定的で、不確実性の高い状況下ではその効果はなおさら小さい。
 そのため、金融政策委員会は、必要な時期に備えて政策余地(ポリシースペース)を温存し、経済の方向性に対する確信がより明確になった段階で活用する可能性が高い。ただし、GDPへの影響が想定以上に深刻となった場合には、年内に追加で1回の利下げを検討する可能性はある。
 なお、中央銀行は、債務再構成措置、ソフトローン、信用保証措置などのターゲット型政策を活用し、金融政策の効果を高める方針である。
◆政策対応の方向性:「一律支援」から「3T(Targeted・Temporary・Transform)」へ
 エネルギー価格を低すぎる水準で長期間にわたり一律補助することは、非常に大きな財政負担を生み、所得格差を拡大させる。高所得層ほどエネルギー消費が多いからである。また、省エネを促さず、貿易収支の大幅な悪化を招く。さらに、短期間でエネルギー価格を大幅に引き上げざるを得なくなるリスクを生み、経済の急激な停滞を引き起こす可能性がある。
 政府は、短期的なリスク管理と長期的な強化のために「3T」措置へ移行すべきである。内容は以下のとおり。
 1)Targeted(対象を絞った支援)
 低所得者、農家、公共交通事業者など、影響を強く受けるグループに対して、ピンポイントで補助措置を行ない、困難を的確に軽減する。
 2)Temporary(時限的措置)
 エネルギー価格の管理は、「管理された変動(Managed Float)」の形で行ない、市場価格の方向に逆らわず、段階的に価格を引き上げる。これにより、消費者に適応の時間を与えると同時に、財政リスクを低減する。
 3)Transform(構造転換)
 危機を機会として活用し、エネルギー安全保障を強化する。民間部門に対し再生可能エネルギーへの投資インセンティブを提供し、エネルギー効率の向上を図ることで、短期的な経済刺激と長期的なエネルギーシステムの安定性の向上を実現する。
◆世界経済は戦争の影響により減速へ、インフレ圧力の上昇でFRBの利下げは年後半に先送り
 SCB・EICは、ベースシナリオにおいて、2026年の世界経済の成長率は前年比2.7%から2.5%へ低下するとみている。戦争の影響により、生産コストの上昇と生産用の原材料の不足が生じるためで、その結果、インフレ率は上昇する。
 特に、エネルギー輸入への依存度が高い経済、例えばアジア経済は大きな影響を受ける。
 金融政策の面では、主要な中央銀行は不確実性が高い状況にあって、慎重な姿勢を維持している。SCB・EICは、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを第4四半期まで延期する可能性が高く、今年の利下げは1回、25ベーシスポイントにとどまると予測している。インフレ率が上昇する可能性があるためである。

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