米国経済が変調の兆し=タイ政府は輸出への影響を注視
セーター首相は8月6日、定例閣議後の会見で、政府が米国の景気後退(リセッション)の兆候を追跡しているとした上で、物品輸出に影響が及ぶことを懸念していると述べた。前日の米国発世界同時株安を受けたもので、米国経済がリセッションに陥った場合、タイは深刻な影響を受けるため米国の経済状況を注視していく。
首相は今回の米国の株安について、米国経済の実態というよりは、投資家の懸念から生じたもので、米国政府は経済対策を講じるとの見通しを示した。閣議後の会見時点で株式市場が反発していることも付け加えた。ただし、この日の株式市場は後場に入ってから反落し、SET指数は前日比0.05%安となる1274.01ポイントで取引を終えている。
プームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼商業相によると、米国経済は後退に陥る危険性があるため、商業省が輸出状況を監視している。米国経済からの影響だけを見ているのではなく、世界全体の状況を見ていると説明した。企業がグローバルな変化に適応するのを手助けするため、民間との会議を度々開き、解決策を模索していると述べ、進展具合について最新情報を提供していくとした。商業省は、世界の政治状況、経済状況、戦争、新たなタイプの貿易障壁が輸出の障害になることを理解し、すでに準備はしているという。中国TEMUのタイ市場参入がタイ企業に及ぼす影響への懸念についても、問題の所在を認識していると述べた。
タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ・ティアンヌクン会長は、米国経済がリセッションに入った場合、真っ先に影響が及ぶのは輸出部門で、製造業者がこれに続くと指摘した。工場はすでに販売不振に直面し、新規の受注が細っている。FTIが発表する工業部門信頼感指数は6月の指数が87.2ポイントまで低下し、最近の24か月で最低水準に落ち込んでいる。
サイアム商業銀行のシンクタンクであるエコノミック・インテリジェンス・センター(EIC)副主任のソムプラソン・マンプラサート氏は、米国経済がリセッションに陥る可能性はかなり低いと見ている。ただし長期に及ぶ金融引き締めの影響から経済成長の速度は確実に鈍化しているとし、タイ経済に対するリスクが増すと指摘した。EICは、タイ経済の構造的な要因からファンダメンタルズの悪化が続くと見ているが、ソムプラソン氏は米国経済が変調すれば悪化のテンポが速まると警告した。
物品輸出は通年1~2%増
タイ荷主評議会(TNSC)のチャイチャーン・ジャルンスック会長は6日の月例会見で、通年の物品輸出予測を1~2%増に据え置くと述べた。地政学的対立、米中貿易戦争、米大統領選、米国の労働運動、海上運賃の上昇などがリスク要因で、注意を払っていく必要があると指摘した。
同会長は中国の過剰生産を懸念している。世界市場への輸出攻勢につながり、低コストの製品がタイにも大量に流入する。国内の製造業が中国製品に市場シェアを奪われるリスクが高まっている。中小の輸出企業は資金繰り難にも直面していることを訴えた。
株式市場は上向き予想も
一方、株式市場はSET指数が1300ポイントを割り込んでいるが、今後上向くと予想するアナリストもいる。タイ株式市場は国内政治情勢が不透明な影響を強く受けているが、セーター首相の大臣資格問題は14日に憲法裁の判断が下る。あるアナリストは、結果がどう出ても、下院が解散にならないかぎり、株式市場は前向きな反応を示すと予測した。
株式市場の地合の改善につながる要因はほかにもある。予算執行の加速と観光業の回復から足元の景気に明るい兆しが見え始めているほか、上場企業の業績も悪くなく、市場のEPS(1株あたり利益)予想が下がる兆候は見られない。米国の利下げが予想されるなど、世界的な金融緩和、タイESGファンドや官製投資ファンドの「ワユパック・ファンド」復活構想もあり、株式市場への資金流入の増加が期待できる。
今年上半期の外国人観光客数は1800万人で、通年目標3600万人の50%に達した。例年、下半期のほうが観光客数は多くなるため、通年の観光客数は上振れする可能性が高い。貿易相手国経済の回復は今後の物品輸出の拡大につながる。民間投資は上半期の投資委員会(BOI)統計からも好転の兆しが見られる。上半期の投資申請ベースの合計投資予定額は4500億バーツに達している。政府投資も24年度予算の投資的経費の執行率が6月末現在、投資予算全体の52%に達し、3月末時点の18%から執行が加速している。年度末時点の執行率は83%に達すると予測されている。
タイ証券取引所(SET)が7月1日から空売りに対しアップティック・ルールを導入したことも、株価の下げ圧力を軽減するのに大きく貢献している。空売りの売買代金に占める割合は同ルール適用前には12%の水準だったのが、5%に低下している。外国人投資家は今年上半期に月平均で約190億バーツを売り越してきたが、7月は17億バーツの売り越しにとどまっており、買い越す日も出ている。
7月のインフレ率0.83%=前月比では0.19%増
商業省が8月7日に発表した7月の一般消費者物価指数上昇率(一般インフレ率)は0.83%で、6月の0.62%を上回った。物価は前月比では0.19%増となり、上昇に転じた。食品・飲料の物価が前年比で1.27%上昇したほか、非食品・飲料物価は0.50%増となった。商業省は通年の一般インフレ率を0.00~1.00%と見積もっている。
7月に食品・飲料では総菜、生鮮果実、米、生鮮野菜、卵・乳製品、非アルコール飲料、調味料の物価が上昇した。工業製品ではガソホール、軽油、ガソリンなど燃油価格が上昇したが、電力料金、シャンプー、石鹸、スキンケア製品、リンス、Tシャツ/シャツの物価は下がった。
一般消費者物価から生鮮食品とエネルギーを取り除いた基本消費者物価指数上昇率(コアインフレ率)は0.52%で、前月の0.36%から上昇した。
7月の物価は前月比で0.19%上昇した。食品・飲料の物価が0.18%上昇したほか、非食品の物価も0.21%上昇した。総菜、生鮮果実、生鮮野菜、燃油の物価が上昇した。
1~7月の一般インフレ率は0.11%。
プーンポン・ナイヤナパコン商業政策戦略事務局長はこの日の会見で、8月も7月に近似したインフレ率になると予測した。政府の補助金により電気代が前年同月比で下がるほか、豚肉の価格水準は前年同月を下回っている。生鮮野菜の物価も市場出荷量増で下がる傾向にある。ドバイ原油価格は7月末時点で1バレルあたり79.69㌦と、前年8月平均の86.61㌦を下回っている。ただし政府は軽油価格を33バーツ未満に抑制する政策の実施期間を10月末まで3か月延長することを決定しており、軽油の小売価格は8月も前年同月水準を上回る。観光業の回復により航空運賃など観光関連の物品・サービスの価格も値上がりする傾向にある。生鮮果実の価格は需要増から上昇する見通し。
一方、7月の生産者物価指数は前年同月比で4.0%上昇した。前月比では0.4%減。1~7月の生産者物価は2.7%増となった。
7月の工業製品の生産者物価は3.7%増。精製油、ゴム/プラスチック、食品、化学薬品、機械・機器、衣料などの物価が上昇した。農産物・水産物の生産者物価は9.1%増。鉱業製品の物価は3.2%減だった。
タイ人の海外旅行が減少傾向=ビザ免除で中国が人気に
タイ人の海外旅行が伸び悩んでいる。家計債務の膨張、株式市場の信頼感低下などを背景に景気先行き不透明感が広がる中、消費者の財布の紐が固くなっている。タイ旅行代理店協会(TTAA)のジャルン・ワンアナノン会長[=写真]によれば、下半期の海外パッケージ旅行の売れ行きは激減している。7~9月のローシーズンだけでなく、ハイシーズンである最終四半期の予約も鈍化している。
例年、TTAAは年初と年半ばに「タイ・インターナショナル・トラベルフェア」を開催しているが、今年は年半ばの開催を見送る異例の事態になっている。次回開催予定は年明け後の来年1月16~19日。同会長はその頃には状況が改善すると願っている。
コロナ前2019年のタイ人海外旅行者数は1200万人だったが、今年は700万~800万人にとどまる見通し。旅行先は価格が安い中国が人気で、今年は初めて100万人の大台に乗る見通しとなっている。今年3月にビザ免除措置が発効したことで、中国に行きやすくなったが、勢いは弱まっているという。旅行者数で中国を上回るのは日本。今年は19年の130万人に迫る120万人が見込まれている。3位以下はアセアン諸国で、マレーシア(60~70万人)、ベトナム(50万人)、ラオス(40万人)。
以前は韓国、台湾、香港など東アジア諸国・地域がトップ5入りしていたが、今年は様相が異なる。ジャルーン会長は「近場で安上がりに旅行したい人が増えていることの表れだ」と述べている。タイ人海外旅行者の多くは2万バーツ台の予算で行ける旅先を選んでいるという。2万5000バーツの日本行きパッケージなどが売れている。旅程にも工夫が必要で、客の選択の自由を広げるため、従来1日2食だった料金込みの食事を減らすなどの対応をしているという。
韓国はタイ人の不法出稼ぎ労働者問題による入国審査の厳格化が響き、タイ人の韓国離れが急速に進んだ。今年は30万~40万人を達成できれば良い方だという。欧州はツアー料金が最低でも6万~7万バーツとコロナ前から倍増し、集客が難しくなっている。五輪で注目されているフランスも料金が高いことと安全面に不安があることから敬遠する人が少なくない。欧州では東欧諸国が比較的人気になっている。
TTAAの理事を務めるクオリティ・エクスプレス社のタナポン・チーワラタナポン社長によれば、ビザ免除措置発効後のタイ人による中国旅行は倍増している。旅行先としての中国は、観光資源が豊富で、安全性も高い。最近は張家界、武陵源自然風景区、長沙、九寨溝、成都、昆明、大理、麗江を巡る4泊5日のコースが2万バーツで販売され人気を博しているという。日本は対円でバーツが高くなっていることから旅行しやすくなっている。ただ外国人観光客が急増した一部の観光地で、外国人料金を設定しようとする動きも出ており、年末にかけての観光客の出足に影響が出る可能性も指摘されている。
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