2024年8月30日(金)号

対中貿易赤字が膨張=輸入品の検査強化へ

 対中貿易赤字が拡大している。今年1~6月の中国からの輸入額は前年同期比7.12%増の376億㌦で、貿易赤字は15.7%増の200億㌦に達した。プームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼商業相(首相代行)は8月28日、関連政府機関の代表を呼んで会合を開き、対策委員会の設置を決定した。輸入時の通関検査の強化や、海外のオンライン通販プラットフォームにタイ国内拠点の設置と国税局への付加価値税(VAT)納税者登録を義務付ける措置を講じる。


 中国からの輸入品目のトップ3はスマートフォン、コンピュータ・同部品、鉄鋼製品。中国は安い労賃、サプライチェーンの充実、固定為替、政府による補助などで価格競争力の高い製品を輸出しており、タイだけでなく世界の多くの国が対中貿易赤字を抱えるに至っている。
 商業省商業政策戦略事務局(TPSO)のプーンポン・ナイヤナパコン事務局長によれば、品目別の昨年の対中貿易赤字額はスマートフォン33億1000万㌦、コンピュータ・同部品28億1000万㌦、熱延鋼板25億6000万㌦、EV25億4000万㌦、機械・同部品18億8000万㌦、鉄鋼・同製品18億5000万㌦、化学品17億7000万㌦、電機・同部品14億6000万㌦、プラスチック製品12億5000万㌦、プリント基板11億7000万㌦となっている。これら物品の赤字は今年に入っても続いている。
 TPSOは赤字削減に向けて品質基準の厳格な適用を政府に提言している。劣悪な電化製品などの流入が止まないため。同事務局長は消費者の健康や環境への影響、安全面で国産品と同等の品質基準の適用を徹底するほか、脱税品・密輸品の取締を強化することで、劣悪で違法な中国製品を排除する必要性を指摘している。
 27日の閣議でも、中国からの廉価で劣悪な商品が大量に流入することによる消費者と中小企業への影響を懸念する声が挙がり、商業省に対策を指示している。28日の会合では5つの措置を確認した。
 1つ目は輸入時の通関検査の強化で、商品の記載内容と貨物の整合性、品質基準認証、食品安全の保証に関する記録、納税証明などの検査を徹底する。コンテナで入荷する場合には全品検査を実施、オンライン通販プラットフォームを通じた小口貨物についても検査を強化する。タイ資本であっても名義貸しによる中国人の実質的な事業の可能性があることから検査の手は緩めない。名義貸し企業は銀行による保証書や事業登記など一見合法的な書類を揃えることが可能なだけに、綿密な検査を要する。
 2つ目は劣悪商品の流入を抑止するために必要な法改正で、海外のオンライン通販プラットフォームにタイ国内の拠点設置を義務付ける省令案を電子取引振興機構が検討している。税務とコンプライアンス(合法性)を政府が常に監視できるようにする狙いがある。またタイ工業製品規格事務局(TIS)のTIS規格取得を義務付ける工業製品の種類を増やすことも検討する。
 3つ目は外国のオンライン通販プラットフォームがタイ国内で販売する場合、国税局に付加価値税(VAT)納税者登録を義務付ける。
 4つ目は工業振興局、中小企業振興機構(OSMEP)、国家科学技術開発機構(NSTDA)、国家イノベーション機構(NIA)が協力して、中小企業の商品開発力の育成を進め、中小企業の競争力の向上を図る。
 5つ目は中国、日本、韓国などの貿易相手国と交渉を進め、オンライン通販プラットフォームを通じたタイ製品の輸出拡大を図る。
 国内の製造業者と消費者に深刻な影響を与えそうな輸入品は、果物、野菜、アパレル、化粧品、家具、宝石・アクセサリー、プラスチック製品、化学品、電子製品、セラミック、手工芸品など。この他に観光業、流通業、倉庫・物流業、不動産業、建設業、外食などのサービス産業の中国からの進出も影響が大きい。

民間消費、投資に改善の兆し=財務省の月例経済財政報告

 財務省財政局が8月28日に発表した月例経済財政報告によれば、7月のタイ経済は観光業が引き続き拡大したほか、物品輸出が大幅増に転じたことが支援要因となった。ただし民間投資は収縮を続けており、目配りが必要になっている。資本財の輸入数量が増加するなど改善の兆しもあるが、商用車の新規登録台数は減少している。また乗用車と自動二輪車の新規登録台数も引き続き収縮した。

◇デマンドサイド

 民間消費の指標は前月から上向く兆しが見える。7月の付加価値税収は前年同月比で11.4%増となり、季節調整済み前月比でも2.1%増加した。乗用車と自動二輪車の新規登録台数は前年同月比で9.7%減、3.7%減となったものの、季節調整済み前月比ではそれぞれ10.1%増、0.7%増となった。7月の消費者信頼感指数は57.7ポイントで、前月の58.9ポイントを下回った。消費者は景気低迷、生活費の上昇を懸念している。実質農業所得は前年比で5.0%増となった。
 民間投資の指標も前月から改善する兆しを見せている。民間の設備投資では、資本財輸入数量が7月に前年同月比で13.8%増加し、季節調整済み前月比でも16.9%増を記録した。商用車の登録台数は前年同月比で12.0%減となったものの、季節調整済みの前月比では13.4%増加した。民間の建設投資では国内セメント販売量が前年同月比0.7%増加し、季節調整済み前月比でも5.7%増となった。不動産取引税収は前年同月比で7.1%増、季節調整済み前月比では18.0%増だった。
 物品輸出額は前年同月比で大幅増となった。7月のドル建て物品輸出額は257億2060万㌦で、前年同月比で15.2%増。石油・同関連製品、金、武器を除いた輸出額は9.3%増を記録している。コンピュータ、電話機、エアコンの輸出はそれぞれ順に82.6%増、34.1%増、27.8%増となった。このほかにも天然ゴム製品、ペットフード、水産缶詰、米の輸出が55.4%、26.6%、20.4%、15.6%伸びている。ただし砂糖、自動車の輸出は減少した。
 物品輸出を仕向け地別に見ると、インド、米国、アセアン(9)、中国向けがそれぞれ順に36.0%増、26.3%増、18.6%増、9.9%増となった。ただし中東、オーストラリア向けは3.7%減、2.8%減だった。

◇サプライサイド

 観光関連サービス業は前年比で上向いた。7月にタイを訪れた外国人観光客は310万人を数え、前年同月比で24.6%増、季節調整済み前月比でも1.6%増加した。中国、マレーシア、インド、韓国、ラオスからの観光客が増えている。またタイ人の国内観光も7月は延べ2200万人を数え、前年同月比で11.1%増、季節調整済み前月比で3.4%増となった。
 農業セクターでは、7月の農産物生産指数が前年同月比で1.4%減となった。ゴム、キャッサバの生産が減少した。ただし季節調整済み前月比では2.2%増となった。
 工業セクターでは、工業部門信頼感指数が前月の87.2ポイントから89.3ポイントに上昇した。消費財の国内需要の拡大で特に食品・製薬業の信頼感が上向いた。ただし家計債務の膨張により消費者の購買力が弱体化していることと世界経済情勢の不透明は、信頼感を下押しする要因になっている。

◇経済安定性

 7月の一般インフレ率は0.83%増で、コア・インフレ率は0.52%増となった。7月末時点の公的債務残高の対GDP比は63.5%で、財政規律法が定める70%以下の水準を下回っている。対外安定性も健全な水準を保ち、7月末時点の外貨準備高は2306億㌦となっている。

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