新政権の所信表明=緊急実施政策10項目
ペートンターン首相が9月12日に国会で演説する新政権の所信表明は10項目の緊急実施政策を掲げる内容になっている。首相は7日に開いた閣僚懇談会後の会見で、政府が取り組みを急がなければならない緊急の課題は、社会に安定と安全をもたらし、経済的機会の平等を生み出すことだと述べ、国民の抱える債務問題を解決し、所得を増やすための経済刺激策に取り組む決意を示した。
国会議員に事前に配布された所信表明の原稿は全85頁。
タイは今後を見据えると多くの課題に直面している。最も大きな課題は国民生活で、多数の家計で支出を賄うだけの充分な所得がなく、債務問題は深刻になっている。家計債務残高は約16兆バーツ、GDPの90%を超える水準に膨張している。金融機関の不良債権は増加傾向にあり、貧困層と富裕層の所得格差は拡大し、制度内金融から融資を得られない者が抱えている制度外金融からの借金の問題も深刻だ。
急速に進む社会の高齢化も政府に突き付けられた大きな課題の一つ。国の発展レベルを超え、域内諸国と比べても猛烈なスピードで社会の高齢化が進んでいる。昨年には高齢者(60歳以上)が人口の20%を超える高齢社会に入っており、10年後には超高齢社会を迎える。出生率は下がり続け、労働者のスキルは低いまま。タイの生徒のPISA学習到達度スコアは過去20年間で最低水準に低下している。
麻薬の蔓延は社会の安定と安全、生活の質、経済、安全保障に脅威となっている。今年第2四半期には薬物関連の犯罪が前年同期比で約30%増え、麻薬中毒者は190万人に増えた。
雇用とGDPの約35%を占める中小企業は資金繰り難から疲弊している。中小企業向け融資の不良債権比率は7.6%に上昇した。中小企業は急速な技術変化に適応できず、サプライチェーンにおける生産構造の変化や世界的な需要動向に対応できないでいる。海外からの輸入品との競争も激しく、タイの製造業の設備稼働率は60%を下回っている。
世界の気候変動は農業部門や観光部門に影響を及ぼしている。
タイは度重なるクーデタの結果、長きにわたって政情不安に直面してきた。タイ経済やタイへの投資に対する外資の信頼感は低下している。
官僚制度は中央集権的で、国民のニーズに充分に応えられないでいる。政府機関は縦割りで細分化され、連携が取れていない。
タイは米中対立をはじめとする地政学的状況変化から生じる難題にも直面している。
◆緊急実施する10政策
こうした課題を踏まえ、政府が緊急の政策課題に掲げる10項目は以下のとおり。
(1)金融システム全体を通じた債務再構成を推進する。特に住宅ローンと自動車ローンは焦げ付きが目立つ。金融機関が新規融資に慎重になっているため、住宅市場と自動車市場は収縮している。モラルハザードを引き起こさないよう注意しつつ制度内外の債務者を支援する。また国民の金融リテラシーを高め、貯蓄を促す。
(2)企業、特に中小企業を外国の競争相手との不当な競争から保護するため、公正な競争環境を作る。オンライン・プラットフォームを通じた安価な商品流入への対策を強化する。また官民が共同投資するマッチング・ファンドなどを通じて中小企業が抱える債務問題を解決して経済の推進力としての中小企業の活力を取り戻す。
(3)エネルギーと公共料金を引き下げる。エネルギー価格構造の調整を図るとともに、国のエネルギー安全保障のための戦略的石油備蓄制度(SPR)の創設や電力直接購入契約(ダイレクトPPA)に関する法規の制定を急ぐ。また資源開発ではカンボジアとの領海主張重複エリアの共同開発で交渉を進める。大量輸送システム(電車)開発を推進し、首都圏の電車の共通乗車券システムを通じて、電車利用者の運賃負担を軽減する。
(4)インフォーマル経済や地下経済を税制に組み込むことで国の歳入を増やし、社会福祉、教育、保健、公共事業の財源を確保する。表に現れない地下経済の規模はGDPの50%に達するとされる。新政権はセーター前政権が着手したカジノ併設の複合娯楽施設開発政策を進める。
(5)経済刺激策を急ぐ。経済に対する信頼感を高め、支出を促し、国民の生活費を軽減し、雇用や所得獲得の機会増につなげる。脆弱な層を優先する考えで、デジタルマネー給付政策は枠組を修正し、脆弱な層に先行して現金の形で給付する。一般国民向けにはデジタルマネーを給付することで、デジタル経済の基礎を築く。
(6)精密農業(Precision Agricultu-re)やフードテックなどのアグリテックを活用することで、伝統的農業の近代化を進める。食糧安全保障を強化するため、農業、漁業、畜産業の開発を進め、ハラル食品の振興を含め「世界の台所」政策を復活させる。
(7)観光業の振興を加速させる。MICE(会議・報奨・国際会議・展示会)観光を振興するほか、デジタルノマドのビザ申請を容易にする。世界的なコンサート、フェスティバル、スポーツ・イベントを誘致する。また複合娯楽施設、ウォーターパーク、アミューズメントパークなどの人工アトラクションの開発を支援する。
(8)麻薬問題を包括的に解決する。近隣諸国の協力を得て麻薬の生産・輸送ルートを断ち、密輸を阻止する。薬物依存症の治療、職業訓練、教育、社会復帰を進める。
(9)オンライン詐欺などの犯罪問題の解決を急ぐ。国境を超えたコールセンター詐欺防止のため、迅速に対処する能力を構築する。移動通信会社や銀行との共同責任のメカニズムを創設する。
(10)変化する社会情勢に応じた社会福祉を提供する。特に脆弱な層のポテンシャル開発を促進する。タイ国籍を持たない少数民族などの無国籍者が、法に定める権利や福祉にアクセスできるようにする。
ワユパック・ファンド=16日から募集開始
クルンタイ・アセット・マネジメント社のチャウィンダー・ハーンラタナクン社長[=写真右・中央]は9月9日の記者会見で、「ワユパック・ミューチュアルファンド1」の投資口を国内個人投資家向けに9月16日から20日まで募集すると発表した。年3.0%の利回りが保証され、運用成績次第で最高で年9.0%のリターンが得られる。配当は年2回支払われる。ファンドの運用期間は10年。1口あたり10バーツで、1000口1万バーツから購入できる。10月7日にはタイ証券取引所(SET)に上場する。
クルンタイ・アセットは同ファンドを管理するファンドマネージャー。投資口の販売窓口はクルンタイ・アセット、MFCアセットのほか、バンコク銀行、クルンタイ銀行、アユタヤ銀行、カシコン銀行、サイアム商業銀行、政府貯蓄銀行の6行。チャウィンダー社長によると、個人投資家と機関投資家の関心は高いが、政府が期待しているのは個人投資家の資産運用の選択肢とすることであるため、個人投資家を優先する。個人投資家向け募集で余った投資口は機関投資家向けに売り出す。ファンドの規模は1000億~1500億バーツになるもよう。
ファンドはSET上場銘柄への投資で運用する。対象となるのはファンダメンタルズが良好なSET100指数指定銘柄やSET・ESGレーティングで高いスコアを獲得している企業。
フィナンサ証券のワラー・スチャリットクンCEOは、年3.0%の最低利回り保証について、10年物国債の平均利回りが2.7%であることからも妥当な水準としている。利回りは最高でも年9.0%を超えないが、上場不動産投資信託(REIT)の利回りと比較すれば妥当だと述べている。
タイ資本市場連合会(FETCO)のコープサック・プートラクン会長は、ワユパック・ファンドの1500億バーツに加え、今年終わりにはタイESGファンドからも500億~600億バーツの投資マネーがタイ株式市場に流入することで、株価の上昇が期待できるとしている。
その他のニュース
[経済ニュース]
ピチャイ副首相兼財務相=所得税引き下げに言及
25年度歳出予算法案=9日に上院で可決、成立
株式投資家信頼感=心理は「強気」に転じる
7月の農業指数=生産減も所得は増加
トップス・スーパー=消費者参加型割引セール
レオウッド社=LiVExに上場
電力料金保証金=中規模以上の事業所にも返済
[社会ニュース]
喫煙者に暴行で物議の病院=「喫煙ボックス」を設置
退役軍人が隣人を銃殺=ペットを巡るトラブル
無許可運営ミャンマー人学校=教育省が強制閉鎖処分に
[セミナー]
AIで世界が変わる
[農業経済事務局データ]
農水産物の生産指数
農水産物の庭先価格指数
コメント