2026年9月7日(月)号

データセンター政策を抜本見直し=1か月で統一基準策定

 アヌティン首相兼内相は9月4日、総理府で開かれた第1回データセンター事業政策委員会会合に出席し、タイを単なるデータセンターの立地先ではなく、関連産業や技術、人材を呼び込み、国内で付加価値を生み出す地域のデジタル拠点へ高める方針を示した[=写真上]。電力や水、土地利用、環境、安全保障などの課題に対応し、グリーン・データセンターの基準や再生可能エネルギーの利用、AI・クラウド・エコシステムを含む包括的な政策・監督枠組みを構築する。政府は4つの作業部会を設け、1か月以内に共通政策と明確な基準をまとめる。


 会合はアヌティン首相が開会し、エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相が委員長として議長を務めた。チャイチョノック・チッチョーブ・デジタル経済社会相、エカナット・プロムパン・エネルギー相、ポンピー・スワンナチャウィー内務副大臣、チャッチャート・シティパン・バンコク都知事、バンコク都の幹部やその他の関係機関が出席した。
 会合後にはエークニティ副首相が、エカナット・エネルギー相、チャイチョノック・デジタル経済社会相、ポンピー内務副大臣、ダヌチャー・ピチャヤナン国家経済社会開発評議会(NESDC)事務局長、ナリット・トゥードサティラサック・投資委員会(BOI)事務局長、チャッチャート都知事らと記者会見し、政策見直しの具体策を説明した。
◆国家戦略不在、許認可を一元化
 ラチャダー・タナディレーク政府報道官によると、アヌティン首相は、経済や技術の変化に対応した明確で体系的な方向性と政策枠組みの策定に協力してきた各方面に謝意を示した。データセンターは未来産業のデータ保存・処理を担うインフラで、デジタル経済の発展を支える基盤でもあると指摘した。
 タイは立地条件やインフラの準備状況、アセアンの経済ハブとしての役割を背景に、国内外の投資家から継続的に関心を集めている。一方、これまでデータセンターに関する明確な国家戦略がなく、事業者はBOI、水道、電力、国家放送通信委員会(NBTC)など各機関へ個別に許可を申請する必要があった。
 政府はこうした状況を改め、複数機関に分散している許認可や事業情報を国家戦略の枠組みのもとで一体的に管理する。今回の政策変更についてアヌティン首相は、投資を制限したり、データセンター投資を止めたりするものではないと強調した。
 データセンターの拡大には、電力、水、土地、その他の公共インフラを大量に使用するという課題もある。環境、安全保障、サイバーセキュリティへの影響も想定されるため、法律や基準、国益に沿った監督が必要とした。
 特に都市部では、地域社会へのデータセンター設置を巡って住民から懸念が出ている。首相は、データセンターがデジタル時代への移行を支える重要な施設である一方、関連法や監督措置はなお発展途上にあると説明。適切な基準の策定を急ぎ、住民や事業者の信頼を高め、想定される影響を抑える必要があるとした。
◆技術移転や人材育成、国内への利益還元
 アヌティン首相は、政府が目指すのは目の前の問題への対応や、投資を呼び込んでデータセンターの立地先になることだけではなく、投資を通じて国内に付加価値を生み出すことだと強調した。関連産業の誘致や技術移転、タイ人人材の育成を進め、国内のデジタル・エコシステムを構築し、長期的な国の競争力向上につなげる考えを示した。
 エークニティ副首相は、データセンターをタイのデジタル経済の成長につなげる新たな戦略枠組みを構築すると説明。AI戦略やローカルコンテンツの利用、タイ企業、特に中小企業(SME)やタイ国民への利益の波及も検討すると述べた。
 小規模事業者やタイ国民が国内市場の成長機会から最大限の利益を得られる仕組みを設け、今後の新規投資では国が得られる利益や費用対効果も評価する。
 アヌティン首相は、多くの国も同様の発展段階を経験し、規則を見直して適切な制度を設計することで、デジタル経済を支えるインフラを継続的でバランスの取れた形に拡大してきたと指摘した。シンガポールなど海外の事例も参考に、政策を大幅に見直す。
◆政策の柱は4項目
 エークニティ副首相は、新たな政策の柱として4項目を示した。
 第1は情報の統合と一元化。これまで複数機関に分散していた許可や事業情報を集約し、国内のデータセンターの実際の状況を一つの情報として把握できる仕組みを築く。規則違反や、名称を変えて規制を回避する行為が確認された場合には、直ちに法的措置を取る。
 第2は最低基準(Minimum Requirements)の設定。地域ごとの経済、社会、環境への影響を考慮し、住民を保護する基準を設ける。最低基準は、すでに稼働している事業、建設中の事業、今後の新規事業のすべてを対象とし、既存事業者にも新たな安全基準への対応を求める。
 第3は国家戦略との連携。データセンターをクリーンエネルギー、温室効果ガス排出削減、AIなど国の重要戦略と結びつける。国内インフラの準備状況を評価し、データセンターの適正規模も定める。
 第4は公平な審査と競争。すべての事業に最低基準の順守を求める一方、将来の新規案件については、タイに最大の利益をもたらす戦略的事業を選定する。投資家が委員会に事業を提案する「ピッチング(Pitching)」方式も採用し、国に最も大きな利益をもたらす投資家を選ぶ。
 政府は全体の作業期間を1か月以内とし、今週中に関連情報を集約して提示する。その後、①経済、②インフラ、③土地・都市計画、④環境の4作業部会で検討を進める。
 経済部会は基準や国家戦略を評価する。インフラ部会は水道、電力、デジタルインフラを検討。土地・都市計画部会は立地や都市計画上の課題を扱い、環境部会には天然資源・環境省次官も参加して環境面を検証する。各部会の結論を集約し、共通政策と明確な基準を策定する。
 今回の委員会では情報や意見を集約し、現在の状況に合ったデータセンター事業の政策や監督方針を策定する。各方面からの提案を踏まえ、布告の制定や規則改正など具体的な対応につなげる。
 地域住民への影響についてエークニティ副首相は、各機関が住民保護のための最低基準を定めると説明した。燃料タンクを無許可で設置すれば規則違反となり、許可取得前に建設を始めた場合も当局が対応する。環境や騒音についても厳格な最低基準を設定するため、住民は過度に心配する必要はないとした。
 施設規模については、地域の状況や都市計画に合わせて適切な立地を定める。データセンターは必ずしもバンコクに立地する必要はないと指摘し、「投資は拡張できるが、住民へ影響を与えてはならず、タイに最大限の利益をもたらさなければならない」と強調した。
 チャッチャート都知事は、住民の安全基準について、①環境影響評価、②適切な立地を定める都市計画、③建築物のセットバック距離などの建築規制、④非常用燃料の厳格な安全管理、⑤水道・電力など公共インフラの準備状況の5分野で水準を高める必要があるとした。
◆法制度の抜け穴利用も確認
 アヌティン首相によると、バンコク都が域内のデータセンター建設状況を調査した結果、適正に進められている事業がある一方、コスト削減のため法制度上の抜け穴を利用したり、不適切な許可を使用したりした可能性のある案件も確認された。
 このため政府は、規則をより厳格にし、発生し得る抜け穴を早急に塞ぐ考え。データセンターの定義や法的地位も明確化する。
 チャッチャート都知事は、データセンターの定義が明確になり、一つの産業分野として正式に扱う方向が示されたことを歓迎した。
 ポンピー内務副大臣は、新たな対応によって一般住民向けの電力、水道、都市計画に影響は生じないと強調した。
 内務省、地方電力公団(PEA)、首都電力公団(MEA)、地方水道公団(PWA)、首都水道公団(MWA)は、まだ建設を開始していないデータセンター事業について、すでに事前合意がある案件を含め、電力や水道などの供給手続きを一時停止する準備を進めている。
 委員会が新たな措置をまとめるまで待つ方針で、主に①都市計画、②電力供給、③水道供給の3分野を管理する。
 バンコク都内では現在、出力9~23MWのデータセンター6案件が許可申請されている。このうち3案件は2022~24年に認可され、すでに稼働している。バンコク都は職員を派遣して抜き打ち検査を実施し、周辺地域への影響や迷惑が生じていないかを確認する。検査結果は今後の政策検討材料として活用する。
 残る3案件は最終認可に至っておらず、関係機関と詳細を再検討するため一時停止する。委員会は1か月以内に明確な政策上の結論をまとめる見通し。
◆電力使用申請は約2万MW
 データセンター関連の電力使用申請は合計で約2万MWに達している。ただ、この数字には将来の電力需要に備えた予備申請も含まれている。首相は、タイがデータセンター向けに新たに2万MWの発電能力を追加しなければならないという意味ではないと説明した。
 会合では、こうした電力や水を大量に使用するデジタルインフラ投資を秩序ある形で受け入れる方策や、バンコク都内での法制度上の空白、不適切な許可の是正も協議した。
 データセンターは大量のエネルギーや資源を使用するため、政府は今後の発展をタイのネットゼロ目標と整合させる考え。クリーンエネルギーや太陽光、風力など再エネの利用を促すほか、環境負荷を抑えた非常用電源システムも検討する。
 首相は委員会に対し、データセンターの定義や法的地位、グリーン・データセンター基準、再エネの利用、データ保護、サイバーセキュリティ、国内のAI・クラウド・エコシステム支援などを幅広く検討するよう求めた。OECDの基準も考慮する。
 適切な規則と基準を設けることで、住民の安全に影響を与えず、環境や安全保障にも配慮しながらデータセンター投資を継続し、タイを地域のデジタル・イノベーション拠点へ高める方針。
 首相は、適切な方向性を定めることができれば、タイはデジタル経済の成長機会を最大限に活用し、地域のデジタル・イノベーション拠点へ発展でき、安定的で持続可能な成長にもつながると述べた。各方面が関心や懸念を示し、意見を持ち寄って解決策を検討していることにも謝意を表明した。
 委員会の検討結果は布告の制定や規則改正などにつなげるほか、将来的にはデータセンターを対象とする専用法の制定も選択肢として検討する可能性がある。

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