チャルーン・ポーカパン・フーズ社

チャルーン・ポーカパン・フーズ社

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魚力との合弁で鮮魚店展開

 23年11月30日に「タイランド・コーポレート・エクセレンス・アワーズ2023」の受賞企業の表彰があった。タイ最大の食品製造業者であるチャルーン・ポーカパン・フーズ社(CPF)も、マーケティング・エクセレンス賞を受賞した。特に評価されたのが、「タイ・チキン~ミッション・トゥ・スペース」キャンペーンだった。

プラシットCEO

■持続可能な世界の台所

 受賞にあたって、CPFのプラシット・ブンドゥアンプラスートCEOは、次のようにコメントした。
 「持続可能な世界の台所というビジョンに基づき、新しい技術とイノベーションにより食糧安全保障の確立に貢献すべく事業を推進している。心身の健康にとって好ましい食品の生産がタイ・チキン~ミッション・トゥ・スペース・キャンペーンの出発点となった。スペース・フード・セーフティ・スタンダードを満たす水準を目指して鶏肉調製品の品質改良に注力するためのキャンペーンで、消費者の信頼感を高めるべくNANORAKS LLCとmuSpaceという米国と東南アジア地域の宇宙イノベーション分野の専門企業と提携し、共同研究プロジェクトを実施した。タイの食品を世界レベルにとどまらず、宇宙飛行士が大気圏外で食べることができるレベルの安全基準を満たすようグレードアップする取り組みは今回が初めてだ。
 我々は適正価格で栄養価の高い安全な食品の生産を常に重視してきた。特に考慮しているのはイノベーション、ウェルネスすなわち健康、プラネットすなわち地球環境で、並行して消費者の行動とニーズを追跡することで製品の研究開発に役立てている。加えて飼養工程も重視し、丈夫で健康な家畜に肥育するよう取り組んでいる。良質なものを選別し、良好な管理システムが備わった清潔な飼育場で飼育し、感染症の予防にも気をつけている。家畜の各生育期に適した飼料を開発し、プロバイオティクスを使用したイノベーションを用い、良性の微生物により家畜の腸を丈夫にする家畜飼料の生産方法を編み出した。世界的な研究機関と協力して12万5000種の微生物の中からプロバイオティクスを選別し、10種の最も丈夫なプロバイオティクスだけを採用して家畜の体内で免疫力の強化を図る仕組みを確立した。その結果、家畜、とりわけ鶏は抗生物質を投与しなくても健康を維持できるようになった。このようにして残留物質ゼロの非常に安全な製品が生産されている」
 CPFの持続可能な世界の台所というビジョンは、国、国民、企業の利益を考慮して事業を進めなければならないというチャルーン・ポーカパン(CP)グループのタニン・ヂアラワノン上級会長が示す持続性へと至る3つの利益という考え方を応用したもので、国連の持続可能な開発目標(SDGs)とも一致する。特にネットゼロの世界的な目標を支援する取り組みは、コミュニティ、社会、世界に良質な価値をもたらすことを事業活動の基礎とする経営陣の意思を反映している。ガバナンス/経済、環境、社会の3つの側面から世界の主要企業を評価するダウジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)のS&Pグローバルによる最も新しい23年の評価でも、CPFは食品工業で最高得点を獲得し、新興市場グループで9年連続で構成銘柄に指定された。

■50年までにネットゼロ

 CPFは、農家、取引先、株主/投資家、従業員、周辺コミュニティの住民を含むサプライチェーンを通じた全てのステークホルダーの人権を尊重している。消費者に対しては、良好な健康に資する栄養価の高い食品の開発を目指したイノベーションに注力している。通常期と危機時の両方において食糧安全保障の確立に尽力することをミッションとする戦略枠組の下、先端的な技術とイノベーションを導入する一方で、サーキュラー・エコノミーの指針に基づいて自然資源を最大限利用し、その価値を高めるべく取り組んでいる。同様に非常に重視しているのが食品の安全であり、基準の向上に常に取り組んでいる。家畜飼料の生産、豚、鶏といった家畜やエビなど水棲生物の飼養、食品加工までを含む生産工程全般への先端技術とイノベーションの採用を進め、生産性と安全基準の向上に役立てている。「タイ・チキン~ミッション・トゥ・スペース」キャンペーンでは、宇宙飛行士用の食品として40種以上の製品の安全性が保証された。
 周辺環境の変化にともなう新しいリスク要因の発生に対しても、あらゆる次元で対応する準備を進めている。例えばデジタル技術を駆使したデータの安全性確保、責任ある生産要素の調達に関する実践に向けた管理監督の厳格化、良好な生態系の均衡維持に向けた生物多様性の促進、人材開発プログラムを通じた担当業務に関する専門性の向上、生じている変化を視野に入れたリスキリングの推進、社会にとって善良な人間を育てる文化の振興、公正・平等な人事管理、性の多様性の尊重などに取り組んでいる。
 50年までにネットゼロを達成するための取り組みに関しても、食品生産者として初めて科学的原則に基づく温室効果ガスの排出削減に向けた短期的、長期的目標を受け入れた。この目標は、企業が独自に温室効果ガス削減目標を設定するのを支援している世界的な非営利団体であるSBTi(科学と整合した目標設定イニシアチブ)が農林水産業・食品部門用の基準と見なしているFLAG(森林・土地・農業に関するガイダンス)に基づいている。
 「現在18か国で事業を展開し、40を超える国/地域に製品を輸出している。世界中で40億人を超える人々と関わりを持っている。広く世界の経済、環境、社会に責任を持つ長期的に持続する価値の創造を目指し、持続可能な世界のキッチンというビジョンに基づき全てのステークホルダーとともに成長していく」

■23年第3四半期は最終赤字

 このほど発表した23年第3四半期の業績によれば、売上等合計は1444億9800万バーツだったが、コスト高と豚肉価格の下落が事業に影響を及ぼした。売上高総利益率は前年同期を下回り、結果として本社分で18億3700万バーツの純損失を計上した。収入の比率はタイ国内が38%、国外が62%だった。家畜飼料の生産に用いる原料価格とエネルギー価格の上昇がコスト増を招いた。加えて多くの国で豚肉価格が前年同期を下回り、中でもタイ、ベトナム、カンボジアで平均価格が前年同期比で26%下落した。生産量が需要を上回ったのみならず、タイでは海外から豚肉が大量に密輸入されたことが価格下落を助長した。中国での合弁会社による豚肉生産事業も価格下落問題に直面した。需要が通常に復しないため供給過剰が発生したのだ。
 プラシットは23年の業況を総括して、多くの要因から試練の年になったと述べた。
 「多くの国で経済情勢が予測を裏切り、各種のコストも上昇した。高金利により金融コストが嵩んだ上、原料となる農産物の価格も上昇した結果、目標どおりの業績を上げられなかった。そこで投資と支出に慎重になる一方で、情勢と業況を密接に追跡し、投資計画を修正した。資源の効率的な利用を心掛け、柔軟に事業経営できるように方針を転換した。このため第4四半期の業績は上向く見通しにある。とはいえ24年も試練とリスクを見据えた経営になりそうで、経済的リスク、地政学的リスクは依然として残る。情勢を密接に追跡し、支出管理に注力しなければならない。投資は周到、慎重に行なう。資源の効率的な利用を重視することで競争していく。消費者のニーズにより良く応えるべく、イノベーションを駆使した商品とサービスをもってマーケティングとセールスを支える。こうした取り組みにより、業績は徐々に回復するだろう」

■魚力との提携

 23年の興味深い動きを見ると、タイ国内では鮮魚・寿司の卸小売を手掛ける日本の魚力(東京都立川市)と提携して、10月30日にCP魚力の1号店と2号店をバンコク都内のロータス・スクムヴィット50店とマクロ・シーナカリン店内にオープンした。日本全国の魚市場から良質な魚介類を輸入して販売する。

マクロ・シーナカリン店にオープンした1号店

■SCGとの提携

 10月3日にはサイアム・セメント・グループ(SCG)系列の2社との提携が発表された。SCGパッケージング社とはパルプとポリマーを原料とするパッケージのイノベーション追求に関する覚書、SCGケミカル社とは環境にやさしく温室効果ガスの排出が少ない食品用パッケージ・ソリューションの研究開発覚書が締結された。合わせて、持続可能性に関する共通目標を持つバリュー・チェーン内の企業とも共同でイノベーション開発に取り組む機会を開く。
 プラシットは次のようにコメントした。
 「覚書は、持続可能なパッケージ開発に寄与することを目指して3社が力を結集させる機会をもたらす。当社は、消費者の心身の健康に役に立ち、環境にも良い食品の生産を目指している。3社はいずれも持続可能性に関する目標を有し、50年には温室効果ガスの排出を実質ゼロとするネットゼロを目標に掲げている。そこで共同で地球環境の保全に寄与する活動に取り組むことになった。パッケージの持続可能性は当社も重視している分野で、現在でも当社が使用しているパッケージは99.9%がリユース、リサイクル、または短時間での分解が可能(Compostable)な素材を使用しているが、さらに地球環境の保全に寄与するパッケージの開発を目指す。我々の取り組みがタイのパッケージ生産と使用の効率化と持続可能性に寄与することを期待する」
 9月29日~10月8日にシリキット会議場で開催された「サステナビリティ・エキスポ2023」では、CPFはフューチャー・フードをテーマとするセミナーで製品研究開発部門のナリニー・ロビンソンCEOが講師として次のように述べた。
「持続可能な世界の台所というビジョンに基づき、社会と環境に責任を持ち、世界中の人々の食料安全保障に寄与すべく事業を展開している。したがって世界中の消費者のニーズに応える課題として、未来食品の開発を重視している。世界中の消費者が多様で質の良い安全な食品に手ごろな価格でアクセスできるようにしたい。将来の食糧安全保障にとって重要なイノベーションの一つが植物ベースのプロテイン/植物肉で、栄養価が高くサプライチェーンも短い。そこでオルタナティブ・プロテイン食品の研究開発に従事する部局を設置し、世界的な研究機関とも提携して研究開発に取り組む。またスタートアップも支援し、21年にはプラントTECイノベーションを用いた『ミート・ゼロ』ブランドの植物肉の販売を開始した。その後も味覚や舌触り、色合いなどをできる限り肉類に近づけるよう、価格的にも競争力を強化するよう開発を進めている。微生物を用いたオルタナティブ・プロテインや培養肉の開発にも取り組んでいる」

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