2025年3月6日(木)号

米国、7品目で関税引き上げ方針=タイの輸出に深刻な影響も

 トランプ米大統領は、鉄鋼、アルミニウム、自動車、半導体、医薬品、木材、銅の輸入関税を引き上げる方針を発表した。これにより、タイの輸出産業にも大きな影響が及ぶ見通しだ。米国はタイにとってこれらの製品の主要な輸出市場であり、全体の約5分の1を占めているからだ。ベトナムには及ばないものの、タイの輸出における米国のシェアはマレーシアやインドネシアを上回っており、特に半導体の米国市場への依存度は高く、輸出全体の34%を占めている。
 今回の関税引き上げは、米国内の生産促進と貿易赤字削減を目的としており、今後「相互関税(Reciprocal Tariff)」の発表も予定されている。
 カシコン・リサーチセンターは3月4日付のリポートで、タイへの影響について考察した。
 トランプ大統領は、特定の貿易相手国に対する関税を段階的に引き上げている。中国からの輸入品には2月4日に10%の関税を課し、3月4日にはさらに10%を追加した。また、メキシコとカナダからの輸入品には3月4日より25%の関税を適用する方針で、「カナダのエネルギー関連製品のみ、関税率が10%に据え置かれる。また、3月12日には鉄鋼とアルミニウムの関税が25%に引き上げられ、4月2日には自動車に対しても同様の措置が取られる予定だ。半導体、医薬品、木材、銅についても関税の引き上げが検討されており、詳細は今後の発表を待つことになる。
 関税引き上げは、米国がこれらの品目で大きな貿易赤字を抱えていることが背景にある。また、他国と比較して米国の輸入関税率が低いことから、貿易の公平性を確保する狙いもある。米国内の生産を活性化させるため、戦略産業としてこれらの品目を重視し、競争力の維持を図ろうとしている。
 タイの輸出業にとって、この措置は大きな影響を及ぼす可能性がある。米国向けの7品目の輸出額は、世界市場全体の21%を占め、特に半導体の輸出は34%、鉄鋼は18%、アルミニウムは15%と高い割合を占める。これら品目が関税の影響を受けることで、タイの貿易における競争力が低下する懸念が高まっている。
 関税引き上げに伴い、米国の輸入業者が新税率の適用前に大量の仕入れを行なう『駆け込み輸入』が発生する可能性がある。また、輸入品の価格上昇により米国のインフレ率が下がりにくくなり、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げが影響を受けることも考えられる。米国企業のサプライチェーンの変化も予想される。例えば、コカ・コーラはアルミ缶の代わりにプラスチックボトルの使用を増やす可能性を示唆しており、関税政策が製品の仕様や供給ルートにも影響を及ぼすと予測される。
 今後、関税の詳細や「相互関税」の適用対象が明らかになるにつれ、他国による報復措置の可能性も否定できない。これにより、世界的な貿易摩擦がさらに激化し、国際貿易全体に悪影響を及ぼすことが懸念されている。

◇タイ経済への影響
 7品目の米国向け輸出額は約220億㌦に達し、タイの米国向け総輸出の40%、世界市場向け総輸出の7.4%を占める。特に半導体や電子機器はサプライチェーンの変化による影響を受けやすく、今後の輸出戦略の見直しが求められる。また、中国資本による投資が近年増えているため、米国の制裁対象としてタイからの輸出品が規制される可能性もある。
 鉄鋼やアルミなどは、他の市場へも輸出がある程度分散されているため影響は限定的とみられる。アルミはすでに米国で10%の関税が課されているため、25%への引き上げによる影響は他国と比べて相対的に小さくなる。
 世界経済の減速や貿易摩擦の拡大により、タイ企業は国内外の市場でより厳しい競争に直面することが予想される。今後のトランプ政権の関税政策の行方は不透明だが、カシコン・リサーチセンターは、今回の関税引き上げがタイの輸出全体を0.5%減少する可能性があると試算した。
 トランプ大統領による関税強化は、米国の貿易赤字削減と国内産業保護を目的としている。しかし、その一方で貿易摩擦の拡大を招き、国際経済全体に深刻な影響を及ぼす可能性がある。特にタイの半導体・電子機器産業は大きな打撃を受けそうで、今後の動向に注目が集まっている。

BOIが独ZFと提携=タイを自動車部品生産拠点に

 投資委員会(BOI)は、世界有数の自動車部品メーカーであるドイツのZF社と提携し、「ZF Thailand Supplier Day 2025」を開催した。タイのTier2およびTier3の部品メーカーとZFのグローバルサプライチェーンを結びつけることを目的としたイベントで、タイを同社の主要な生産拠点の一つとする計画の一環として実施された。ZFは今後5年間でタイ国内の部品調達額を現在の10倍に増やし、年間180億バーツを目指す。


 BOIのナリット・トゥードサティラサック事務局長[=写真中央]は、3月4日にバンコクのラマガーデンズホテルで開催されたイベントで、ZFとタイの部品メーカーの連携を強化し、タイが同社の主要な生産拠点となることで、タイの自動車産業の競争力を高めたいと述べた。
 ZFグループは、ドイツに本社を構える世界有数の自動車部品メーカーで、事業を世界中に展開している。Tier1サプライヤーとしてトランスミッション、サスペンション、シャシーなどの主要部品を世界の自動車メーカーに供給している。
 1996年にタイ市場に参入し、現在はラヨン県とチョンブリ県に5つの生産拠点を構えている。2025年には、これらの拠点を東南アジアの主要生産拠点へと格上げし、さらなる投資を行なう計画だ。
 ZFのグローバル調達責任者であるダニエレ・ポンタローロ氏[=写真右]は、今回のイベントにドイツ本社から参加し、自社の調達戦略と今後の成長計画を説明した。ZFの中国およびアセアン地域の調達担当者も参加し、タイの部品メーカーとの商談会を実施した。
 現在、ZFのタイでの部品調達額は年間約18億バーツ(50百万ユーロ)だが、同社は今後5年間で10倍となる180億バーツに増やす計画を示した。世界中の自動車メーカー向けの生産増強に向け、タイの部品メーカーの活用を強化する方針を示した。特にTier 2およびTier3メーカーの技術力を高め、グローバルサプライチェーンに組み込むことを目指す。今回のイベントには、タイ国内の約200社、合計430名が参加した。そのうち75社がZFの調達チームと個別商談を行ない、8つの主要部品カテゴリー(シャシーソリューション、電動・機械部品、化学材料、鋳造、鋼材コンポーネント、鍛造・成形品、ライフテック、非生産材)の分野で商談が進められた。
 ナリット事務局長は、世界的な貿易摩擦が激化する中、ZFがタイを主要生産拠点と位置づけ、部品調達を拡大することは、タイの自動車産業にとって大きなチャンスと述べている。タイ企業が技術力を向上させ、グローバル市場での競争力を強化する絶好の機会になるとした。
 BOIは今後も、外国企業の投資を促進し、タイ国内のサプライチェーン強化を支援することで、持続可能な自動車産業の発展を推進していく考えだ。

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