2025年6月10日(火)号

NESDC第1四半期社会状況報告=雇用・家計債務・健康に課題

 国家経済社会開発評議会(NESDC)事務局は6月9日、社会状況報告(2025年第1四半期)を公表した。雇用は引き続き減少したが、失業率は低下した。家計債務(2024年第4四半期)は伸び率が鈍化した一方で、不良債務は引き続き増加した。生命や財産の安全も悪化した。アルコール飲料とたばこの消費、監視対象疾患による罹患、消費者保護に関する苦情の受理件数が増加した。また、注目すべき社会的状況として(1)タイの労働市場におけるソフトスキルのギャップ、(2)OTT:現代のメディアサービスはどのように規制すべきか、(3)外来種の監視と対応についての特別記事と、「外国における地震対応の事例研究」に関する記事も掲載された。
 第1四半期の労働状況は悪化した。農業部門では雇用が引き続き減少し、非農業部門ではわずかに拡大したが、中小企業の技術やイノベーションの応用が不足していること、新卒者が失業のリスクにさらされていること、労働者の解雇に対する保障を構築する必要があることなどを指摘した。
 第1四半期の就業者数は3940万人で、前年同期から0.5%減少した。農業部門の雇用が3.1%減少したことが主因で、非農業部門では0.5%増とわずかに改善した。特にホテル/レストラン分野では、観光客数が減少し始めているにもかかわらず、3.5%の拡大がみられた。同様に、運輸・倉庫分野も4.5%の拡大が続いている。一方で、製造業の雇用は0.4%とわずかに縮小し始めている。
 また、全体として労働者の労働時間は週あたり40.8時間に減少し、民間部門では週あたり44.0時間だった。残業をしている労働者は5.0%減少したが、不完全就業者もまた7.9%減少した。失業率は低下し、2024年第1四半期の1.01%に対し、0.88%となった。失業者は約36万人で、高卒以下の学歴層での減少がみられた。長期失業者も14.3%減少し、6.8万人となった。準失業者は430万人を超え、前年から14.6%増加した。
 NESDCは注視すべき重要な課題として、①中小企業の存続に向けたイノベーションと技術の活用、②解雇時における労働者への保障の構築、③新卒者の失業リスクを挙げている。
 世界銀行の報告によれば、タイの事業者は近隣諸国に比べて業務におけるイノベーションの活用割合が低い。これが競争力に影響し、廃業の一因となる可能性がある。中小企業が資金源にアクセスしやすくし、技術・イノベーション導入の機会を高める支援が求められる。1998年労働保護法は、労働者が違反行為をしていない場合の解雇について、雇用主は勤続年数に応じた補償金を支払う義務があると定めているが、過去には特に外資系事業所で補償金が支払われない事例が多数あった。労働者が正当に補償を受けられるよう、明確な措置の検討と制度整備が必要だとした。
 ある調査によれば、経営者の89%以上が、新卒者は経験やスキル、ビジネスマナーが不足しているとみており、採用を回避する傾向にある。代わりに、フリーランスや退職した元社員を雇用したり、ポジションを空けたままにしたりする選択がなされている。新卒者はスキルと姿勢の両面で準備を整える必要があり、教育機関も教育方法の見直しを急ぐべきだと指摘した。
 2024年第4四半期の家計債務は、引き続き増加ペースが鈍化した。一方で、家計向け債権の質は低下した。注目すべき課題として、タイ人の消費における贅沢志向の行動が過剰債務につながる可能性があること、協同組合を信用情報機関(クレジットビューロー)の会員とすることを挙げた。
 2024年第4四半期末時点の家計債務残高は16兆4200億バーツで、前年同期比で0.2%増と微増にとどまった。特に商業銀行による融資の厳格化によるものであり、その結果、家計債務のGDP比は前の四半期末時点の88.9%から88.4%へと低下した。
 家計向け債権の質は低下し、信用情報機関のデータによると、90日以上延滞している個人向けローンの総額は1兆2200億バーツ、貸付全体の8.94%を占めた。前四半期末時点の8.78%から増加した。一方、延滞期間が30~90日のローン(SML)は5680億バーツで、前年同期比で6.9%減少した。
 NESDCは、タイ人に贅沢志向の消費行動が見られ、過剰債務に陥りやすい傾向を指摘している。マヒドン大学の調査によると、タイ人の3人に1人が高級品やプレミアムサービスに支出する傾向にあり、債務の悪循環に陥るリスクを高めている。
 今年第1四半期における監視対象疾患による罹患は増加した。新型コロナの感染拡大、性感染症、特に梅毒とHIVの感染拡大傾向、子どもの猩紅熱の感染拡大、生の牛肉との接触または摂取による炭疽菌感染について、引き続き注意する必要がある。
 第1四半期に監視対象疾患による罹患は前四半期から引き続き流行するインフルエンザと肺炎の増加により、64.1%増加した。
 第1四半期におけるアルコール飲料とたばこの消費は増加した。アルコール飲料とたばこの消費支出は前年同期比で1.0%増加した。アルコール飲料の消費が2.0%増加した一方、たばこの消費は0.8%減少した。注視すべき課題として、過度かつ頻繁に飲酒する人が疾病リスクにさらされている5県の存在を挙げた。統計局の2024年のデータによれば、15歳以上のタイ人によるアルコール飲料の消費が増加しており、ブリラム、ラチャブリ、ターク、アントン、ウタラディットの5県では、週に3、4日間多量に飲酒する人の割合が高く、疾病のリスクがあるとされる。
 また、喫煙者数は減少傾向にあるものの、常習的喫煙者の数は増えており、新たな喫煙者の年齢も若年化していることが確認されている。
 第1四半期において、生命および財産の安全は低下した。注目すべき課題として、子どもの水難事故による死亡、タイ国民が依然としてオンライン詐欺の被害を受けるリスクが高いこと、災害警報システムの整備状況を挙げた。
 第1四半期に、刑事事件総数は前年同期比で1.2%増えた。薬物関連事件が0.3%増え、財産への加害事件が21.1%増えた。一方、生命・身体・性に関する事件は6.8%減少した。
 道路交通事故の通報件数は前年同期比で0.2%増加し、負傷者、重度障害者が増加した一方、死者は11.9%減少した。
 消費者からの苦情は、商品・サービスに関する問題で増加した一方で、国家放送通信委員会(NBTC)事務局を通じた通信分野の苦情は減少した。
 レポートは、商品・サービスの広告のためにAIを用いて画像を生成する行為、偽の宿泊施設ページの蔓延、私立病院のサービス料金が不適切に高額な問題を指摘している。

オリコ・オート・リーシング=タイで創業10周年

 オリコ・オート・リーシング(タイランド)社(OALT)は、今年で創業10周年を迎えた。5月26日の会見には大鷹正人駐タイ日本大使[=写真左から3人目]もお祝いに駆けつけた。同社の現在の自動車ローンの与信残高は190億バーツ、顧客数は12万人を超えている。今後は、デジタル化による業務効率の改善と、国内代理店網の拡充によって事業の拡大を図る。


 同社は、日本の親会社(オリエント・コーポレーション)のノウハウをタイに持ち込み、特に中古車ローン分野で強みを発揮している。全国1000件以上の中古車販売業者と代理店契約を締結し、顧客ベースを広げ、リスク管理にも注力して透明性と持続可能性を重視した事業戦略を実施している。代理店との間で10年をかけて築いた信頼関係は、同社にとってかけがえのない経営資源となっている。
 デジタル化においては、ローンのオンライン申請システムの導入や業務の一部自動化を進め、サービス向上と業務効率の改善を実現している。中所得層を中心に据えたマーケティング戦略を採用し、代理店や販売員との連携を強化することで、リスク管理にも万全を期している。
 同社の池田社長は、景気の鈍化や米国による関税引き上げといった経済リスクはあるものの、タイ人の自動車需要は根強く、今後も自動車ローンの需要は着実に伸びていくとの見通しを示している。今後は、EVローンなど新たな商品展開も検討している。

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