2026年1月14日(水)号

中銀が金融政策フォーラム=経済の構造的課題鮮明に

 タイ中央銀行は1月7日開催の金融政策フォーラムで、政策金利の引き下げ後も銀行金利の波及が限定的との指摘に対し、現状は想定範囲内との認識を示した。中銀幹部は、信用リスクの高さが中小企業向け融資の抑制要因と分析し、金利だけでは資金供給の拡大につながらないと強調。中小企業支援策「SMEs Credit Boost」の意義も訴えた。2026年の成長率は1.5%にとどまる見通しで、経済の構造的課題が一段と鮮明になっている。


 中銀が1月7日に開催したアナリスト向けの「金融政策フォーラム」で、金融政策の波及効果を巡り質疑が交わされた。金融政策委員会(MPC)が政策金利を引き下げた後も、銀行部門の金利の引き下げは限られ、波及率は約40%にすぎないのではないか、特に個人向け貸出金利の引き下げ幅が小さいのではないかとの指摘があった。
 これに対し、中銀のスラット・テンブン金融政策担当シニアダイレクターは、金利の波及率は通常40~50%程度であり、現状は想定の範囲内と説明した。ただし、最優遇貸出金利(MLR)については、契約ごとに条件が異なり、銀行側が信用度の高い顧客を選別しているため、より高い波及が見られるとした。
 スラット氏は、「MLRをみれば、より高い波及率となる。ただし、MLRのデータは2、3か月程度の遅れを伴って反映されるため、今後も注意深くフォローする必要がある」と述べた。そのうえで、足元では預金金利が低水準にあること、経済成長が低迷し、今年の成長率を1.5%と見込んでいること、信用リスクが依然として高水準にあることなど、複数の要因が重なっていると指摘。「こうした要因を踏まえると、商業銀行の波及率が過去平均に近い水準にあるのは概ね妥当」との認識を示した。
 スラット氏は、昨年12月にMPCが政策金利の引き下げを決定して以降、市場金利もそれに沿って低下していると説明した。貸出金利では、MLR、MRR、MORへの平均的な波及率は約40%となっている。預金金利については、多くの商業銀行が据え置いた一方、一部の銀行が定期預金に限って引き下げを実施しており、平均的な波及率は同じく40%程度だという。
 ただし、金利低下がどの程度融資の拡大につながるかについては、金利だけが決定要因ではないと強調した。融資が伸び悩む主因が高水準にある信用リスクにある以上、対応策はその点に的を絞る必要があるとし、これが「『SMEs Credit Boost』プロジェクトを実施した理由だ」と説明した。同プロジェクトは、新規融資に伴う信用リスクを分担することで、潜在力のある中小企業への資金供給を後押しし、新たな資金を経済システムに呼び込むことを目的としている。
 一方、ピティ・ディサヤタット金融安定担当副総裁は、政策金利を年1.25%という低い水準まで引き下げたことで、金融政策の余地(ポリシー・スペース)が限られてきていると指摘した。金融コストの上昇によって弱まっている需要を何が補完できるのかが今後の課題だと述べた。
 企業部門をみると、大企業と中小企業には明確な差がある。大企業は融資へのアクセスに制約がなく、資金コストも低く、これまでの利下げの恩恵も中小企業より大きかった。一方で、「世界的な貿易政策の不透明感から明確な事業機会がみえておらず、借り入れを増やす需要がない」と分析した。
 「大企業は流動性も十分で金利も低いが、問題は金融部門の逼迫ではなく、資金需要そのものが少ない点にある。本当の課題は、中小企業だ。需要はあるが、融資にアクセスできていない」と指摘した。
 ピティ副総裁は、SMEs Credit Boostプロジェクトが、中小企業の資金アクセスを支援する重要な役割を果たすと強調した。経済構造の転換期において、事業の継続が可能な企業を下支えし、潜在力に見合った成長を実現させる狙いがあるという。
 「中小企業向け融資は長期間にわたって縮小しており、不良債権(NPL)比率は10%を超えている。銀行が中小企業向け融資に慎重になるのは理解できるが、中小企業は経済全体で最大の雇用創出主体でもある。このプロジェクトは、経済が転換期を迎えるなかで、流動性を補完する役割を果たすと考えている」と述べた。
 中銀はこの日のフォーラムで、タイ経済が構造的な問題に直面し、国際競争力が低下しているとの認識を示した。輸出と観光はもはや従来のような成長エンジンとして十分に機能しておらず、MPCが利下げに踏み切ったのは、経済の回復を下支えするためだと説明した。一方で、今後の金利調整にあたっては、中期的なメリットとデメリットの双方を慎重に見極める必要があり、低金利を長期間維持することによる副作用への懸念も示した。
 サッカポップ・パンヤーヌクン総裁補は、直近のMPC会合について、昨年から今年にかけてのタイ経済が、循環的要因と構造的要因の双方によって押し下げられ、減速局面にあることを確認する内容だったと説明した。その結果、タイ経済は2025~2027年にかけて、低い成長率にとどまる見通しだ。
 インフレ率については、サプライサイドの価格要因により引き続き低水準にあるとした。ただし、経済成長が潜在成長率を下回っているため、デマンドサイドからのインフレ圧力は限定的としている。金融環境面では、成長鈍化に伴い資金需要の伸びが緩やかなことから、引き締まる傾向が続いているとの見方を示した。
 サッカポップ氏は、MPCが特に重視しているのは、脆弱性の高い中小企業の金融環境だと指摘した。中小企業は国内外からの競争圧力にさらされているうえ、足元ではバーツ高が急速に進んでおり、経営環境は一段と厳しくなっている。こうした状況を踏まえ、MPCは政策金利を年1.25%まで引き下げた。コロナ禍を除けば極めて低い水準で、国際的に見ても低金利に属する。
 サッカポップ総裁補は、利下げの目的について、金融緩和を通じて経済の回復を支援し、他の政策の効果を高めるためと説明した。一方で、金利がこの水準まで低下している以上、中期的な安定性への配慮が不可欠だとも指摘した。低金利が長期化すれば脆弱性が蓄積するリスクがあり、将来の不測の事態に対応するための金融政策の余地を確保しておく必要があると述べた。
 プラニー・スッタシー・マクロ経済担当シニアダイレクターは、中銀の試算として、タイ経済の成長率は2025年が2.2%、2026年が1.5%、2027年が2.3%と予測され、いずれも潜在成長率を下回る水準にとどまると説明した。
 タイ経済は、物品・サービスの輸出がGDPの約60%、観光が約8%を占めるなど、対外部門への依存度が高い構造を持つ。その一方で、競争力は継続的に低下している。
 プラニー氏は、2025年には輸出が約12%成長するなど一見良好な数字だが、成長エンジンとして十分に機能しているかには疑問が残ると述べ、製造業の生産は伸び悩み、輸入品との競争も激化していると指摘した。輸出が好調な電子製品についても、輸入原材料比率が高く、輸出拡大の恩恵が国内に十分には波及していないと分析した。
 一方、観光分野では、日本、韓国、ベトナムがいずれもコロナ前を上回る水準まで観光客数を回復させているのに対し、タイだけが観光客数を減らしているとし、競争力の低下が鮮明になっていると述べた。
 プラニー氏は、輸出と観光の競争力の低下を背景に、近年のタイ経済の成長は主にサービス業に依存していると指摘した。労働力はサービス部門へ流入しているものの、多くは低賃金の伝統的サービス分野に集中しており、これが経済成長を潜在成長率以下に押し下げる要因になっている。
 2026年の経済成長率が1.5%にとどまるとの見通しについては、所得の伸びの鈍化に伴う民間消費の減速、物品輸出の減速、高いベース効果に加え、下院解散と総選挙実施により、政府予算の執行が約2、3か月遅れるといった一時的要因を挙げた。
 スラット・シニアダイレクターは、今年の一般インフレ率が主にサプライサイドの要因によって低水準にとどまるとの見方を示した。需要面からのインフレ圧力は限定的だが、デフレリスクは低いとした。先行きの物価指標が安定していることや、中期的なインフレ期待が目標レンジ内にとどまっている点を根拠に挙げている。インフレ率は2027年上半期に目標レンジへ回帰する見通しだ。
 バーツ相場については、米国の金融緩和の動きやタイ固有の要因に沿ったもので、域内通貨と比べて相対的に上昇していると説明した。特に中小企業を中心に輸出業者への影響が出ているとしつつ、中銀が金取引に関連するものと関連しないものの双方を含め、外国為替取引の監視を強化しており、相場に有意な圧力を及ぼす取引については対応策を検討していると述べた。

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