2026年3月9日(月)号

中東危機でタイ経済に打撃=GDP最大0.6%下押し

 カシコンリサーチセンター(Kリサーチ)は3月4日、中東での激しい軍事衝突が長期化した場合、タイ経済に大きな影響を与える可能性があるとの分析レポートを公表した。紛争が数か月続いた場合、エネルギー価格の高騰を通じてタイの国内総生産(GDP)は最大で0.6%押し下げられる可能性があると指摘している。
 今回の緊張激化は、2月28日に米国とイスラエルがイランを攻撃した軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー」を契機に始まった。この攻撃ではイランの最高指導者が死亡し、その後中等地域全体に激しい軍事的報復が広がった。これにより中東の主要な石油・天然ガス生産拠点で操業が混乱し、世界のエネルギー供給に影響が及んでいる。さらにホルムズ海峡が閉鎖されたことで、世界の主要なエネルギー輸送ルートが遮断される事態となった。
 物流面でも影響が広がっている。大手海運会社はスエズ運河経由の航路を停止し、アフリカ大陸南端を迂回する航路へ変更した。航空分野では中東の空域閉鎖や空港の損傷が発生し、一部航空会社は運航を取りやめるか迂回ルートに変更した。その結果、航空運賃は通常の4~5倍に急騰した。
 エネルギー市場も大きく反応した。3月3日時点で、北海ブレント原油価格は1バレル=70㌦前後から80㌦を突破した。欧州の液化天然ガス(LNG)価格は40%以上上昇し、アジア市場(JKM指標)でも1日で20%以上の急騰となった。ホルムズ海峡の閉鎖と主要製油所の操業停止が重なり、供給不安が急速に拡大した。
 Kリサーチは紛争の長期化の程度に応じて3つのシナリオを想定している。第1のシナリオは、衝突が短期間で収束するケースで、軍事行動は限定的にとどまり、状況が1か月以内に沈静化する。この場合、原油価格は一時的に80㌦を超えるものの、平均では65㌦前後に落ち着き、タイ経済への影響は比較的限られたものとなる。GDPが0.2%押し下げられ、インフレ率が0.1%押し上げられる程度にとどまると分析した。
 第2のシナリオは、戦争が数か月続くケースで、イランが石油インフラへの攻撃を強め、ホルムズ海峡の航行が数か月間にわたり混乱する。このケースは最も起こる可能性が高いとされ、原油価格の平均は80㌦前後まで上昇する。タイのGDPは0.6%押し下げられ、インフレ率は約1%上昇する見通しだ。
 第3のシナリオは、紛争が世界規模の対立へ拡大するケースで、ロシアが軍事面で、また中国が経済面でイランを支援するなどして衝突が1年以上続く状況を想定している。この場合、原油価格は一時的に1バレル=130㌦を超える可能性があり、平均でも100㌦程度まで上昇する。
 Kリサーチは、タイ経済が中東危機の影響を受けやすい理由として4つの脆弱性を挙げている。第1はエネルギー依存度の高さだ。タイはエネルギーの約70%を輸入に依存しており、特に原油の60%以上が中東からホルムズ海峡を経由して輸入されている。このため原油価格の上昇は電力料金、燃油価格、液化石油ガス(LPG)などのコストを押し上げ、国内のインフレを加速させる可能性がある。政府による価格抑制にも限界があり、石油基金はようやく財務状況が改善しつつある段階で、国も電力公団に約500億バーツの債務を抱えている。さらに政府の財政余力はロシア・ウクライナ戦争勃発当時よりも狭まっている。
 第2は貿易面での影響。中東向け輸出はタイ全体の3~4%を占め、特に自動車、米、加工食品などは同地域への依存度が10%以上に達する。戦争保険料や輸送費の上昇により注文が減少する可能性がある。また欧州向け輸出(全体の10~12%)も影響を受けるおそれがある。紅海やスエズ運河を回避してアフリカを迂回する航路が増えると、輸送日数は10~15日長くなり、運賃も上昇するためだ。
 第3は観光への影響。中東の航空ハブが機能不全に陥ると、同地域からの観光客やイスラエルからの旅行者が減少する可能性がある。中東からの訪問客は全体の3~4%程度だが、1人当たり支出額が高く、医療観光の主要顧客でもある。また航空燃料価格の上昇と飛行ルートの変更により、欧州や米国など長距離市場からの旅行者も減少する可能性がある。
 第4は対外安定性への影響。原油価格が1バレル当たり10㌦上昇するごとに、タイの経常収支は約40億㌦(GDPの0.6~0.7%)悪化すると試算されている。安全な資産への資金流入によりドル高が進めば、バーツ相場は一段と下げ圧力を受ける可能性がある。原油価格の高止まりは米国のインフレ圧力を高め、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ余地を縮小させる可能性もあり、新興国通貨への資本流出リスクも高まる。
 Kリサーチは、紛争が長期化した場合、バーツは想定の1ドル=32.80バーツよりも弱含みとなり、金融政策の運営も難しくなる可能性があると指摘した。インフレ率が上昇する一方で経済成長が減速するスタグフレーション的な環境に近づくおそれもある。
 いずれにしても、情勢は不確実性が大きく、今後の軍事・外交の展開によって影響の程度は大きく変化する可能性がある。Kリサーチは引き続き中東情勢を注視し、タイ経済への影響を継続的に分析していくとしている。

ホルムズ閉鎖リスクを警戒=政府、原油供給影響を評価

 アヌティン首相は3月5日、首相官邸で記者団に対し、中東情勢の緊張激化を受け、世界のエネルギー情勢を評価するため、経済・エネルギー関連機関との緊急会議を招集したと明らかにした[=写真]。中東地域での対立により、ホルムズ海峡の閉鎖が報じられており、世界の原油輸送ルートに影響を及ぼす可能性がある。特に海外からの原油輸入に依存する国々にとって大きな影響が懸念され、タイも例外ではないと述べた。


 エネルギー関連機関の報告によると、現在タイが輸入する原油の約半分は中東地域からで、残りは世界の他地域から調達している。短期的には3月中の国内石油供給量に影響は出ていないものの、情勢の不確実性が高まっていることから、今後は原油輸入量が減少する可能性もある。このため政府は、国内エネルギーの安定確保に向けた対策の策定を急ぐとしている。
 首相はまた、情勢は2月末以降急速に変化しており、政府は状況を継続的に監視していると説明した。会議には、エネルギー省、財務省、運輸省、外務省のほか、国家安全保障関連機関などが参加し、情勢の評価と追加対策の検討を行なった。
 政府は、リスク分散の観点から中東以外の地域からの原油調達の可能性についても検討を進める方針。首相は、世界情勢の不確実性が続くが、国内経済や国民のエネルギー利用に影響が及ばないよう、あらゆる面で対策を準備していくと強調した。

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