AIがHDD需要を押し上げ=タイの世界生産拠点化を推進
世界が本格的なデジタル経済へ移行するなか、新たなデータ保存技術であるSSD(ソリッドステートドライブ)の役割が拡大するとみられてきたが、実際には、データセンターとAIの急速な拡大によって、HDD(ハードディスクドライブ)が依然として世界のデジタルインフラの重要な構成要素であり続けている。特に大容量データを扱うストレージ分野では、コスト効率の高さが評価されている。
テクノロジー媒体のTechRadarや市場調査会社TrendForceの分析によると、AI対応データセンター向けストレージの需要は近年急速に拡大している。AIや生成AI、大規模言語モデル(LLM)、さらに企業や政府によるクラウドサービスの利用拡大に伴い、世界のデータ量は急増している。データセンターでは膨大なデータを低コストで保存できるインフラが求められており、HDD技術の強みが改めて注目されている。
◆「旧技術」からAIインフラへ
SSDは処理速度の面で優れているものの、保存容量当たりのコストではHDDが依然として優位にある。特にデータセンターにおける長期保存用途ではその差が顕著で、世界の主要クラウド事業者はHDDをストレージの主力として採用している。その結果、1台当たり20~30テラバイト級の大容量HDDの需要が拡大し続けている。
こうした動きを受け、これまで停滞していたHDD市場は再び回復局面に入り、特にデータセンターやAI用途向けのハードディスクでは供給の逼迫もみられ始めている。これらの製品は高度な技術と高い信頼性基準が求められるため、生産能力の確保が重要な課題となっている。
この状況はタイにとって重要な機会となっている。タイはこれまで「旧世代技術の生産拠点」とみられることもあったが、実際には世界有数のHDD生産拠点の一つだ。タイにはウェスタンデジタルのタイ法人であるウェスタンデジタル・ストレージ・テクノロジーズ(タイランド)や、シーゲートテクノロジーのタイ法人であるシーゲートテクノロジーズ(タイランド)など、世界的メーカーが生産拠点を構えており、タイが世界のHDD生産拠点として高い信頼を得ていることを示している。
◆ウエスタンデジタルがタイ生産拠点を高度化
この産業の主要プレーヤーの一つが米国の大手データストレージ機器メーカーであるウェスタンデジタルだ。同社は長年にわたりタイに生産拠点を持ち、投資委員会(BOI)の投資奨励を受けながら事業を拡大してきた。現在、同社は世界のHDD市場で約3分の1のシェアを占めている。
タイは同社の主要輸出拠点の一つで、PMR(Perpendicular Magnetic Recording)技術を用いた最大32テラバイト級のHDDを生産するほか、新世代技術の研究開発も進めている。
最近では、ウェスタンデジタル・ストレージ・テクノロジーズ(タイランド)がHeat-Assisted Magnetic Recording(HAMR)技術の研究開発プロジェクトで投資奨励認可を受けた。データセンターやAI産業の急速な成長に対応する次世代HDD技術。
同社によるこの投資は、タイの電子産業が単なる製造拠点から高度技術拠点へと発展していることを示している。国内に研究開発センターを設置することで、イノベーション能力の向上だけでなく、タイ人労働者の技能の高度化や国内サプライチェーンの高付加価値化にもつながる。
さらに同プロジェクトは、世界的に競争が激化するサプライチェーンのなかでタイの先端電子産業の成長を後押しし、タイをHDDとデジタルインフラの生産・技術拠点の一つとして強化する重要な原動力になると期待されている。
◆データ時代の戦略インフラへ
データセンターとAI産業の拡大により、データ保存装置は単なる技術部品からデジタル経済の戦略的インフラへと位置づけが変わりつつある。データを効率的に保存・処理できる能力は、AI時代における競争力を左右する重要な要素となっている。
世界的なテクノロジー企業が研究開発投資の拠点としてタイを選択していることは、タイの産業エコシステムへの信頼を示している。人材、製造エンジニアリング、そして高度な部品供給ネットワークなどが、新世代技術を支える基盤として評価されている。
実際、タイの先端技術産業への投資は拡大を続けている。2025年には半導体産業だけで303件の投資申請があり、投資予定額は2490億バーツを超えた。タイが世界の電子産業のサプライチェーンのなかで「製造拠点」から「先端技術拠点」へと移行しつつあることを示している。
今回のHDD需要の回復は、データとAIに支えられる新しい世界に適応した技術の進化を象徴している。データが戦略資源となる時代において、HDDは単なる保存装置ではなく、世界のデジタル経済を支える重要な基盤となっている。
AIの拡大、世界的テクノロジー企業による投資、そしてBOIの積極的な産業政策を背景に、タイはこの分野で主要な生産拠点の一つとして存在感を高めつつある。
富士フイルムが紹介=AI搭載医療診断技術
富士フイルム(タイランド)は3月13日、「Fujifilm Visionary RadTech, Redefining X-ray with AI」と題したイベントを開催した。タイ全土から90人以上の診療放射線技師や専門医が参加し、AIを搭載した最新の医療診断技術のデモンストレーションを視察するとともに、医療サービスの質向上や医療従事者の負担軽減に向けたAI活用の方向性について意見交換した。
富士フイルム・ヘルスケア・アジアパシフィックのエスヌ・ハリム地域クリニカルマーケティング上級部長は、AIについて、「世界のヘルスケアシステムを根底から変える重要な役割を担いつつある」と述べた。医療用AI市場は2025年の366億7000万㌦から2033年には5055億9000万㌦規模に拡大する見通しという。
一方で、タイでは依然として医療アクセスの地域格差が課題となっている。国際保健政策開発財団(IHPP)のデータによると、外来患者の未充足の医療ニーズは約27%増加している。また医療従事者が大都市圏に集中しており、東北部では医師1人当たりの人口が2497人、南部では1831人にのぼる。多くの地域で患者が長時間の待機や診断の遅れに直面している。
ハリム氏は、「テクノロジーは人々の生活に変化をもたらしてこそ価値がある。タイでは多くの人が医療アクセスの制限に直面し、実務に即したソリューションの開発が不可欠だ」と指摘した。高度なAIを医療画像技術や病院のワークフローに統合することで、撮影から結果の読影まで診断プロセス全体で医療従事者を支援できると強調した。
さらに、「AIは医療従事者の判断に取って代わるものではなく、その能力を補完・強化するもの。地方の病院の放射線技師が大規模医療センターと同等の診断ツールを利用できる環境を整えたい」と述べた。同社の技術は世界各国の医療機関で業務効率や診断精度の向上に貢献しているという。
富士フイルム(タイランド)の丸尾窓社長[=写真中央]は、AIを活用したソリューションや医療従事者との連携を通じ、タイの医療システムの向上に貢献していく方針を示した。画像撮影から診断、ワークフロー管理まで患者ケアの全プロセスにAIを取り入れることで、高品質な医療へのアクセス拡大と医療従事者の負担軽減を目指すという。こうした取り組みは、同社のグループパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく(Giving our world more smiles)」にも合致すると説明した。

会場では、エックス線画像の読影や疾病スクリーニングを支援するAI技術の実演も行なわれた。画像分析の誤認識を減らし診断を迅速化することで、病気の早期発見につなげる狙いだ。あわせてタイ市場向けの新たなフラッグシップ製品2機種も発表した。
ラチャキット・テンブンサック部長によれば、一つはハイエンドのデジタルX線撮影システム「FDR Visionary Suite(FDRビジョナリー・スイート)」。Irradiated Side Sampling(ISS)方式により高精細画像を実現し、ライブビューカメラやモーション検知、AIによる自動ポジショニング機能を搭載することで再撮影のリスクを低減し、放射線科の業務効率を高める。
もう一つは、救急医療や設備の限られた環境向けに設計された移動型X線装置「FDR Go iQ」。患者をX線室へ搬送することなくその場で検査できる。さらにIP56準拠の防塵・防水性能を備え、抗菌加工のデジタルカセット「D-EVO III」と組み合わせることで、過酷な医療現場でも安定した運用を可能にする。
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