2024年8月23日(金)号

タクシン元首相が講演=国の変革で14項目のビジョン

 タクシン・チナワット元首相[=写真]は8月22日、ネーション・グループが主催した「ディナートーク:2024年のタイのビジョン」で講演し、国を変革し、投資を促進するためのビジョンを示した。カジノを併設する複合娯楽施設を開発する構想や「負の所得税」の採用による税制改革にも触れた。


 元首相は演説の冒頭、昨年の帰国後にタイ人が以前ほどには笑顔でないことに気づいたと述べた。借金が多く、経済的機会も少ないと人は不幸になり、「ムーテールー(民間信仰)」に頼る現象につながっているとした。
 経済の再生に向けて14項目のビジョンを提示した。タクシン元首相はプアタイ党の事実上のオーナーであり、この日に示したビジョンは実娘のペートンターン首相の政権による実質的な所信表明と受け止められている。
 元首相は第1に、家計と企業の債務再構成を挙げ、債務問題を解決しなければ経済は機能しないと指摘した。またこの問題で財務大臣はタイ銀行協会と協議しなければならないと述べた。
 第2に経済政策をめぐるタイ中央銀行との調整を挙げた。金融政策と財政政策は同じ方向を向いていなければならないとした。中銀の独立性は尊重するとしたものの、中銀が5月以降、貨幣供給量(マネーサプライ)を絞ったことには批判的。貸し渋り姿勢を強める商業銀行は経済を刺激する役割を果たさず、中銀債や国債を購入して利鞘を稼いでいるだけだと批判した。デジタルマネー給付にも触れて、この政策のメリットを強調し、推進に意欲を見せている。
 第3に産業構造の改革を挙げ、データセンター、クリーン・エネルギー、EVなどの産業について語った。中国のEVメーカーはタイを右ハンドル車の生産拠点に位置付けようとしている。EVメーカー各社にはタイ国内調達の部品を使用するよう交渉を急ぐ必要があるとした。中国が6Gのための低軌道衛星を大量に打ち上げようとしていることも紹介、小型衛星のタイでの生産で投資誘致を提案した。
 第4に中国製品との競争の激化を取り上げた。タイの中小企業を保護するため中国製品の検査を厳しくするよう提案した。
 第5にソフトパワーを挙げ、政府はソフトパワー振興に真剣に取り組んでいるとした。
 第6に農業の改革を提案した。米輸出でベトナムに勝てなくなっている現状から、タイ米の品質を改善する必要を指摘した。
 第7に観光収入はさらに伸ばすことができるとした。海外からの観光客受け入れのため、スワンナプーム空港はもっと拡張する必要があるとした。地方空港の拡充、観光名所の開発やプライベートジェットの利便性を高めるための規制緩和を提案した。
 第8に複合娯楽施設の開発について触れた。カジノ解禁は以前と異なり、多くの人が支持してくれているとした。
 元首相は、プアタイ党政権が次の選挙で勝つためにも、残り3年間に大規模な投資を実施しなければならないと述べた。9番目の提案で、洪水や旱魃の問題を解決するための公共事業、バンクンティアン区の海岸埋立によるニュータウン開発、バンコク~ノンカイの高速鉄道プロジェクトなどを例示した。電車運賃20バーツ構想に関しては、一部の電車路線を買い上げて国が管理する必要があるとの見解を示した。市街地に乗り入れるガソリン車からの料金徴収で公共事業の財源を確保するアイデアも披露した。
 第10にタイを世界の金融センターにする構想を示した。ドバイやシンガポールのモデルを研究し、金融ハブを目指す。
 第11に土地問題を挙げ、外国人が99年間の長期借地で戸建て住宅を購入できるようにするほか、低所得者がマイホームを取得できるプロジェクトを立ち上げるよう提案した。
 首相は地下経済の問題を12番目に取り上げた。元首相によれば、タイ国民はオンライン・ギャンブルで年間5000億バーツを失っており、メキシコのようになっているとした。地下経済をフォーマルな経済システムに取り込むことで税収は増え、教育に投じることができるようになると述べた。
 第13にワユパック・ファンドによる株価対策と税制を挙げた。付加価値税(VAT)の引き上げには否定的で、「負の所得税」の導入を含め、課税制度をより公平なものにする必要性があるとした。
 元首相は最後に行政改革を挙げ、テクノロジーの活用で公務員総数を削減すべきだと主張した。

24年度補正予算法=22日に官報記載

 8月22日、2024年度補正予算法が官報に記載され、23日より施行になった。歳出総額は1220億バーツで、国民1人あたり1万バーツを支給するデジタルマネー給付政策の財源とするため、セーター前政権が編成した。
 同法は第4条で「景気を刺激し、経済システムを強化するための経費とする」と規定し、デジタルマネー給付の財源とは明言していない。ペートンターン新政権が同政策を廃止し、他の経済刺激策に使うことは可能だが、タクシン元首相は22日の講演で、1450万人の脆弱な層への給付を9月から開始すると述べ、同政策の推進に意欲を示している。

北部地方で広域洪水=各地で交通が遮断

 ここ数日の豪雨で北部地方上部に広い範囲で洪水被害が発生している。チェンライ、ナーン、パヤオの各県では濁流が道路や住宅、農地を呑み込み、各地で交通が遮断された。プームタム・ウェーチャヤチャイ首相代行は22日、灌漑局、気象局、災害予防軽減局などの関連機関の代表を招集して会議を開き、被害状況を確認するとともに、被災者の救助活動を指示した。同首相代行はウタラディット県にあるシリキットダムの貯水量が60%の水準にとどまっていることから、大量の氾濫水がバンコク首都圏まで下りて来た2011年の大洪水のような事態にはならないとして、パニックに陥ることがないよう呼びかけた。水量は管理可能な状態で、これ以上雨が降らなければ状況は改善すると述べている。
 ナーン県では20日から降り続いた雨でチャルームプラキアット、トゥンチャーン、チェンクラーン、プア、ターワンパー、バンルアン、ウィエンサー、ナーノーイの各郡で河川が氾濫し、少なくとも500戸の住宅が浸水した。21日深夜にはムアン郡も浸水した。トゥンチャーン郡内にある住宅が21日に濁流に呑み込まれる瞬間を写した動画がネット上にアップされ、衝撃を呼んでいる。同郡では国道101号線が約60㌢㍍冠水し、交通が遮断される所も出ている。
 チャルームプラキアット郡の国道は少なくとも3か所で土砂崩れが発生し、車が通行できない状態になった。チェンクラーン郡では濁流に流された住民が樹木にしがみついて難を逃れ、無事救出されるまでの様子がネット上に公開されている。
 パヤオ県でもドークカムタイ郡で濁流により住宅400戸が浸水したほか、チェンムアン郡やポン郡で土砂崩れや橋の崩落、60㌢㍍を超える路面の冠水で交通が遮断された。
 チェンライ県ではトゥーン、ウェンゲーンの両郡で洪水が広がり、橋が崩落するなどの被害が出ている。急な増水で避難が間に合わず、大量の自動車が駐車したままの状態で濁流に呑まれる事態になっている。住民が「過去に経験がない」と言う被害が広がる中、20日にドイルアン郡で魚捕りに出ていた77歳の男性が濁流に呑まれて溺死したほか、トゥン郡で17日から行方が分からなくなっていた39歳の女性が遺体で発見された。21日にはウィアンケン郡内の浸水したサトウキビ畑の中で1人の溺死体が発見されている。
 チェンライ県災害予防軽減事務所の調べでは、今月16日から22日までに冠水した地域は10郡30区221村落に及んだ。被災世帯数は5579世帯。1万2828ライの農地が水に呑まれたほか、魚とエビの養殖池68か所も水没した。22日にはプラサート・ヂットプリーチープ副知事がクンターン郡を視察し、被災民と面会した。同郡では1500世帯が被災している。「黄金の三角地帯」で知られるチェンセーン郡のメコン川沿いの観光施設も被災、土砂崩れで土産物店が倒壊した。チェンコーン郡では水没した家の屋根に避難していた住民6人を陸軍の救助隊が救出した。
 政府機関や自治体は被災民の避難所を各地に設けるとともに緊急物資を支給したほか、遮断された交通網の復旧を進めているが、雨は降り続き、事態はさらに悪化する可能性もあるという。特に山間部や山麓では鉄砲水や土砂崩れの恐れがあり、住民に警戒を呼びかけている。大量の水は下流域に向かっていくため、各地で住民に家財道具をできる限り高所に移すよう呼びかけるなど浸水への備えを急いでいる。
 気象局によれば、雨は今後もしばらく続く見通しで、予断を許さない状況が続く。国家水資源事務局(WRO)は月末にかけて全国的に雨が降りやすい気候になる見通しから、北部だけでなく東北部、西部、東部、南部でも洪水や地滑り、鉄砲水などのリスクが高まっていることを明らかにしている。
 中小規模水源の水量が貯水可能量の80%を超え、氾濫への警戒と備えが必要な地域は、チェンマイ、パヤオ、ナーン、プレー、ピッサヌローク、ペッチャブン、ウタイタニ、ルーイ、ブンカーン、サコンナコン、ウドンタニ、コンケン、マハサラカム、ナコンパノム、ムクダハン、ヤソートン、シーサケート、スリン、ウボンラチャタニ、ナコンナヨック、プラチンブリ、チャンタブリ、トラート、スラタニの各県。

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[企業紹介]
PTT社

[データ]
商業省発表の1-6月貿易統計

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