2026年6月22日(月)号

S&Pがタイの格付維持=構造改革と成長力向上が次の課題

 格付会社のS&Pグローバル・レーティングスは、タイのソブリン格付を「BBB+」、格付見通しを「安定的」に据え置いた。強固な対外金融基盤や財政運営を評価した。一方で、今後の格付維持・引き上げには経済成長率や所得水準の向上、構造改革の進展が重要になるとの見方も示した。経済3団体合同常任委員会(JSCCIB)は今回の判断を歓迎する一方、生産性の向上や規制改革を通じた新たな成長エンジンの創出が必要だと訴えた。
 公的債務管理事務局(PDMO)のチンダラット・ウィリヤタウィークン局長[=写真]が6月18日に発表した。タイ経済のファンダメンタルズへの評価と政府の政策運営に対する信認を反映したものとなった。特に対外部門の強固な基盤や外部ショックへの対応力が、格付を支える重要な要因になっている。


 今年のタイ経済の成長率を2.0%と予測した。世界のエネルギー市場の変動が国内経済活動の重しになるとみている。一方で、タイ経済は2027年以降に回復基調へ向かうとみており、2026~29年の平均成長率は2.3%になると予測した。
 また、1人当たり所得は2024年の8000㌦から2026年には9000㌦へ増加するとの見通しを示した。バーツ高の進行もその要因の一つとしている。
 政治面については、新政権のもとで安定が維持されれば政策運営の継続性が確保されるとの見方を示した。経済構造改革や国家戦略に基づく投資計画を進めやすくなると分析している。
 特に東部経済回廊(EEC)開発や運輸インフラ整備計画を重視し、国営企業による投資や官民連携(PPP)が今後の競争力向上を支える重要な役割を果たすと評価した。
 観光業もタイ経済の重要な柱との認識を示した。2026年第1四半期の外国人観光客数は前年同期比約2.4%減少したものの、政府による観光支援策や国内観光振興策が観光産業の付加価値向上を後押しすると予測した。
 財政面では、政府が景気の下支えや外部リスクへの対応を優先し、今後も一定規模の財政赤字を伴う政策運営を続けると見積もった。財政赤字は2026年と2027年にGDP比3.2%程度になる見通しだ。
 また、政府の債務の正味増加額(Net Accumulation of Government Debt)は2026年にGDP比3.5%へ拡大した後、2026~29年平均では同3.1%へ緩やかに低下すると見込んでいる。
 対外部門については引き続き高い評価を与えた。経常収支は2026年にGDP比2.0%の黒字、2026~29年平均では同2.1%の黒字になると予測している。対外資産や外貨準備高も高水準を維持しており、世界経済の変動や金融市場の不安定化に対する耐性を高める要因になっていると指摘した。
 S&Pは今後の格付判断において、同水準の所得国と比較した経済成長率や1人当たり所得の推移、財政収支改善の進展などを重視する方針を示した。経済政策の継続性に影響を及ぼす国内政治の安定性についても重要な評価項目として注視するとしている。
 PDMOはS&Pの格付維持について、「タイ経済のファンダメンタルズと政府の政策運営に対する国際的な信認を反映したものだ」との見方を示した。強固な対外金融基盤や外部ショックへの対応力が高く評価されたとし、こうした安定性が今後の成長力強化や新たな経済機会の取り込みを支える重要な土台になるとした。
◆民間は格付け維持を歓迎
 タイ工業連盟(FTI)、タイ商業会議所(TCC)、タイ銀行協会(TBA)で構成する経済3団体合同委員会(JSCCIB)は、S&Pによる格付け維持について、タイ経済の安定性と財政規律に対する国際的な信認を示すものと評価した。TBAのパヨン・シーワニット会長は、今回のS&Pの判断がムーディーズによる格付け据え置きと見通し引き上げの流れとも一致していると指摘した。
 海外投資家がタイの慎重なマクロ経済運営や財政政策を評価していることに加え、強固な対外金融基盤を維持している点が高く評価された結果だとしている。こうした基盤が世界経済の不確実性や地政学リスク、新たな国際貿易秩序への移行に伴う影響への耐性を支えているとの見方を示した。
 世界的な格付機関による格付維持は、タイが依然として堅固で安定した経済基盤を持つことを示す重要なシグナルだと評価した。また、政策運営の継続性が確保されれば、経済構造改革や新たな投資プロジェクトの展開を後押しする要因になるとの認識を示した。
 一方で、長期的な信頼と投資家の信認を維持するためには、構造改革を本格化させる必要があると指摘した。生産性やイノベーション、品質、持続可能性を重視する経済へ移行し、競争力と成長力を高めることが不可欠だとしている。
 政府に対し、財政規律を維持しながら重点分野へ資源を投入するターゲット型の経済政策を進めるよう提言した。サプライチェーン全体への波及効果が大きい投資を優先する一方、過度な補助金政策による政府支援への依存は避けるべきだと指摘した。
 投資や企業活動の障害となる規制の見直しを急ぎ、新たな成長エンジンの創出につなげる必要があるとの考えも示した。
 JSCCIBは、タイの経済協力開発機構(OECD)加盟に向けた取り組みも支持する姿勢を表明した。OECDは法の支配やガバナンス、透明性、情報公開などの面で国の発展水準を測る重要な指標になると評価している。
 さらに、JSCCIBは、主要産業の高度化に向けて世界銀行など国際機関との連携を進めることも支持した。タイが付加価値の向上や生産性向上、質の高い雇用の創出を軸とする新たな成長モデルへ計画的に移行しようとしていることを示すものだとしている。同委は、この方向性が「Reinvent Thailand」の枠組みに沿うもので、投資家の信頼向上と経済改革の信頼性強化につながるとの見方を示した。
 民間部門として、投資の拡大やサプライチェーンの高度化、中小企業(SME)の育成を通じて政府の改革アジェンダを全面的に支援する姿勢を表明した。民間企業、金融機関、資本市場、政府機関が連携し、官民合同経済問題解決委員会の枠組みを活用して課題解決に取り組むよう提案した。
 タイが経済の安定と財政規律を維持しながら、明確な目標を持つ実効性の高い改革を進めることができれば、投資家や格付け機関からの信頼をさらに高めることが可能になると指摘。その先には、地域レベルで競争力を持つ経済基盤の構築や、国際市場で存在感を発揮するナショナルチャンピオン企業の育成、さらには包摂的で持続可能な成長の実現があるとの期待を示した。

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