エークニティ財務相とシーハッサク外相=アジア域内の投資・連携拡大を訴え
エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相とシーハサック・プアンケートゥケーオ副首相兼外相は7月16日、バンコクで開かれた「Nikkei Asia Forum APAC 2026」[=写真]で講演し、地政学的な不確実性が強まるなか、国内経済の基盤を強化しながら、アジア域内の貿易と投資を拡大する必要があるとの考えを示した。エークニティ財務相は、タイ経済の成長率を3%超へ引き上げ、投資額をGDPの30%近くまで増やすとした目標を表明した。シーハサック外相は、ベトナムやインドなど周辺国の成長を競争上の脅威と捉えるのではなく、タイ経済にも利益をもたらす機会として受け止めるべきだと訴えた。

日本経済新聞社の創刊150周年を記念して開催された同フォーラムには、アジア太平洋地域の企業経営者、投資家、政策立案者、専門家らが参加した。世界経済が急速な転換期に入るなか、アジアの将来像や事業成長の条件について意見を交わした。
大鷹正人駐タイ日本大使が開会のあいさつを行ない、シーハサック副首相兼外相とエクニティ副首相兼財務相が特別講演に登壇した。
◆国内基盤を強化、世界に開かれた国へ
エークニティ氏は、「持続可能な事業の成長に向けた強靱な地域の構築」をテーマに講演した。タイが世界経済の変化に対応するには、国内の経済基盤を強くする一方、国際的な貿易、投資、技術の流れに対して開かれた国であり続ける必要があると述べた。
タイ政府はタイを世界で競争力の高い20か国の一つに引き上げる考え。経済成長率を3%超へ高め、官民を合わせた投資支出をGDPの30%近くまで高める目標を掲げる。
外国企業からの投資申請件数や投資額を増やすだけでなく、高付加価値の雇用、技術移転、国内企業の能力向上につなげることを重視する。海外企業の進出による利益を国内のサプライチェーンへ広げ、タイ企業が外国企業の生産、調達、研究開発に参加できる環境を築く。
エークニティ氏は、こうした成長を実現する政策の柱として「5T」戦略を提示した。
第1の「Target」は、政策支援の対象を絞り込む考え方を指す。政府予算や人材などの資源には限りがあるため、幅広い産業へ一律に支援する従来型の政策を改め、成長力が高く、タイ経済への波及効果が大きい産業へ重点的に配分する。投資プロジェクトについても、金額の大きさだけでなく、雇用の質、国内調達、技術移転、輸出競争力などを重視する。政府が選んだ重点産業へ資源を集中し、限られた財源から最大の経済効果を引き出す。
第2の「Transition」は、エネルギー、交通、人材の移行を意味する。安定したエネルギー供給を確保しながら、低炭素型の経済へ移行し、企業の国際競争力を維持する。世界市場では、製品の価格や品質だけでなく、製造過程で排出する温室効果ガスや使用する電力の種類も取引条件として重視されている。タイ企業が輸出市場から取り残されないためには、再生可能エネルギーの利用拡大や環境負荷の低い交通システムへの転換が必要になる。産業構造の変化に対応した労働者の技能向上も課題となる。政府は将来の産業が必要とする知識や技能の習得を支え、既存産業から成長産業への人材の移動を後押しする。
第3の「Transformation」は、人材、技術、インフラへの投資と行政手続きの改革を柱とする。政府は投資手続きを迅速化する「タイランド・ファストパス」を活用し、大型投資案件の認可に必要な期間を短縮する。複数の官庁にまたがる手続きを見直し、投資家が事業を開始するまでの時間と費用を減らす。海外から誘致した投資を単独の工場や事業所に終わらせず、国内の部品メーカー、サービス会社、教育機関、研究機関との連携につなげる。国内企業が国際的なサプライチェーンへ参入できるよう、技術力と生産性の向上を支援する。
第4の「Transparency」は、規則の明確化と行政運営の透明性を指す。投資家が予測可能な環境で事業を行なえるよう、規則を明確にし、行政判断を検証できる仕組みを構築する。政府はOECDへの加盟を、制度と事業環境を国際水準へ引き上げる重要な政策と捉えている。OECDの基準に合わせて法律、税制、コーポレートガバナンス、競争政策などを改善し、国内外の投資家からの信頼を高める。
第5の「Together」は、政府と民間企業の協力を示す。経済政策を政府だけで決定するのではなく、企業や投資家と目標を共有し、同じ方向へ進む仕組みを整える。
エークニティ氏は、政策を発表するだけでは経済成長につながらないとして、政府機関と民間部門が役割を分担し、投資、雇用、輸出などの成果を継続的に確認する必要があると指摘した。
◆タイを地域経済の接続点に
エークニティ氏は、世界経済の不確実性が高まっても、アジアが世界経済の主要な原動力であることに変わりはないと述べた。タイは東南アジアの中心に位置し、自動車、電子、食品、観光、物流など幅広い産業基盤を持つ。こうした強みを生かし、貿易、資金、技術の流れを結ぶ地域の重要な接続点を目指す。
アジア各国との協力を深め、地域の考え方を世界経済の議論へ反映させていく考えも示した。特定の国や経済圏に依存するのではなく、多様な国との関係を維持し、経済の変動への耐久力を高める。
◆ベトナムの成長はタイにも利益
シーハサック氏は講演で、ベトナム経済の急成長について、タイにとって脅威ではなく、新たな経済機会になるとの認識を示した。
ベトナムの2026年第2四半期のGDPは前年同期比8.39%増となり、第1四半期の7.94%増から伸びが加速した。製造業、小売業、エネルギー部門が成長を支え、アセアン諸国の中でも高い成長率を記録している。
タイとベトナムはいずれも、自動車などの工業生産を経済の柱としている。このため両国は、外国企業の投資先や輸出生産拠点を争う競合国として比較されることが多い。
シーハサック外相は、現在の地域経済を一方が勝てば他方が負けるゼロサムゲームとして見るべきではないと指摘した。ベトナム経済が拡大すれば、タイ企業にとって輸出や投資の機会が広がる。ベトナム企業によるタイへの投資が増えれば、タイ国内の雇用や技術交流にもつながる。タイ企業がベトナムへ投資し、ベトナム企業もタイへ投資する双方向の関係を築くことが、互いを支え合う真のパートナーシップになると説明した。
両国間の貿易をさらに開放し、産業政策、技術、人材育成などの知識を交換する必要性も強調した。個別企業の競争だけに目を向けるのではなく、地域全体の市場規模や投資機会を拡大する視点が必要になると述べた。
◆インドの成長にも期待
シーハサック氏は、インド経済の成長についても、アジア地域全体の活力を高めるとの見方を示した。人口規模が大きく、消費市場やデジタル産業が拡大するインドとの経済関係を強化すれば、タイ企業にとって新たな市場が開ける。インドから東南アジアへの投資が増えれば、地域内の生産網や物流網の拡大にもつながる。重要なのは、各国が限られた利益を奪い合うのではなく、協力によって経済的な機会を増やし、地域全体が成長できる環境をつくることだと訴えた。
タイはアセアン加盟国に加え、日本、中国、インドなど幅広いパートナーと関係を築いてきた。シーハサック外相は、こうした外交関係と地理的条件を生かし、タイが各国と地域を結ぶ橋渡し役を担う考えを表明した。
◆国内改革と域内協力を両輪に
両氏の講演は、タイの成長戦略には国内改革と国際協力の双方が必要との考えで一致する。
エークニティ財務相は、重点産業への投資、エネルギー・トランジション、人材育成、行政改革、透明性の向上を通じ、国内の競争力を高める方針を示した。
シーハサック外相は、ベトナムやインドなどの成長をタイ経済へ取り込み、アジア全体の貿易と投資を拡大する必要性を強調した。
世界で保護主義や地政学的対立が強まるなか、タイは国内経済を強化するだけでなく、多様な国との接続を保つ必要がある。外国投資を呼び込むだけではなく、国内企業や労働者へ利益を広げられるかも問われる。
政府が掲げる成長率3%超と投資比率30%近くの目標を実現できるかは、「5T」戦略を具体的な政策へ移し、海外からの投資を高付加価値産業、雇用、技術移転、国内サプライチェーンの成長へ結びつけられるかどうかにかかっている。
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[閣議決定]
2026年7月14日
[為替・株式相場]
7月13~7月17日
[商品市場]
バンコク首都圏の燃油小売価格
天然ゴム)
[金融市場]
外為相場
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