2026年8月17日(月)号

トヨタがタイ生産を維持=輸入EVとの税制公平化要求

 タイ政府が、自動車産業の競争力維持と日系メーカーの投資継続に向けた対応を急いでいる。8月14日付のタイラット紙によると、ワラーウット・シラパアーチャー工業相[=写真]は、インドネシアがトヨタに主要生産拠点の移転を働きかけていることに警戒感を示し、日本企業をタイに引き留めるため、新たな投資誘致策を検討する考えを示した。一方、同日付けのマティチョン紙によると、タイ国トヨタ自動車はタイから生産拠点を移す考えを示しておらず、政府に対し、国内生産車と輸入EVが公平な条件で競争できるよう、物品税体系を早急に見直すよう求めている。政府もEV支援策や物品税制度を再検討する方針だ。


 タイラット紙によると、ワラーウット工業相は、トヨタなど日本の大手自動車メーカーがインドネシアへの投資拡大に関心を示しているとの報道について、インドネシアが新たな競争相手として高い魅力を持つことを認めた。タイと日本は長年にわたる経済関係を持ち、互いの事業環境への理解も深いとして、「協力して乗り越えなければならない」と強調した。
 日本企業にタイでの事業を継続してもらうには、投資優遇措置を含む新たな誘致策が必要になるとの考えも示した。政府、関係機関、民間部門が連携し、日本企業にタイへの投資魅力を改めて示す戦略を検討する必要があるとした。
◆インドネシアの誘致に警戒
 背景には、インドネシアによる自動車産業誘致の強化がある。タイラット紙は、インドネシア政府がトヨタに対し、主要生産拠点をタイから同国へ移すよう積極的に働きかけ、最高水準の投資優遇措置を提示していると報じた。インドネシアを世界的な自動車生産拠点へ引き上げる狙いがあり、同国財務相は完成車工場だけでなく、関連産業やサプライヤーも国内へ誘致したいとの意向を示している。
 ワラーウット工業相はEV産業政策についても、政府が新たな支援策や物品税の課税基準の見直しを検討していると説明した。国内で生産する企業と輸入車の競争条件を公平にし、国内生産事業者がコスト面で過度に不利にならない制度を目指す。
◆トヨタ、公平な税制求める
 一方、マティチョン紙は、トヨタ側がタイでの生産継続を前提に、現在の税制が国内生産企業に不利になっているとして、政府に制度変更を求めていると報じた。
 スパコーン・ラタナワラハ上級副社長[=写真]は、同社が政府機関と現在の自動車産業を巡る状況について協議し、タイ国内で生産する自動車と海外、特に中国から輸入される自動車との競争条件の違いを説明したと明らかにした。
 トヨタが政府に求めた中心的な措置は、公平な競争を実現するための物品税体系の見直しだ。スパコーン氏は、国益を最優先に制度を再検討する必要があると指摘。中国からタイへ輸入・販売されるEVと国内生産車の税負担には大きな差があり、国内メーカーにとって競争が難しくなっていると訴えた。
 国内に工場を建設して長期的に投資する企業と、税制上の仕組みを利用して完成車を輸入販売する企業との間にも差が生じているとした。こうした状態は国内メーカーの競争力を低下させるだけでなく、本来なら政府が徴収して国の開発に充てられる税収の減少にもつながっているとの見方を示した。
 スパコーン氏は、過去4~5年に政府がEV普及に向け、1台当たり10万バーツや5万バーツの補助金を支給してきた点にも言及した。税金を使って市場を支援する一方、一部メーカーが制度を利用して輸入車を販売しながら、タイ国内への投資計画を明確にしていないと指摘。タイへの長期投資を前提とする企業が不利になる構造が生じているとした。
 物品税制度については、輸入EVだけでなく、部品を輸入してタイ国内で組み立てる事業者も含めて課税基準を再検討するよう求めた。税制見直しは「早ければ早いほど良い」とし、可能であれば輸入車に最大限の税率を適用すべきだとの考えを示した。
 中国メーカーとの競争では、市場規模そのものに大きな差があるとも指摘した。中国の年間自動車販売は2000万台規模に達し、足元では7~8%減少しているものの、タイ市場は年間約60万台にすぎない。中国では約2週間でタイの年間市場に相当する台数が販売される計算になると説明した。
 この規模の差から、タイ国内メーカーが中国メーカーと純粋なコスト競争をするのは難しいとした。中国メーカーは巨大市場を背景として低コストでタイへ輸出できるうえ、タイ国内でも税制上の支援を受けているため、競争上さらに有利になるとの認識を示した。
 マティチョン紙によると、スパコーン上級副社長は、タイ国内で生産する自動車には生産の各段階で税負担が発生する一方、中国からの輸入車は8%を支払った後、政府の税制支援を受けることで実質的な負担が軽くなっていると説明した。「中国の自動車メーカーは得をするばかりだ」と述べ、現在の制度に強い懸念を示した。
 消費者が安価な自動車を利用できること自体には反対していないとした一方、政府が補助や税制支援を行なった結果、タイ経済に何が残るのかを慎重に検討する必要があると指摘した。年間60万台規模の国内市場から本来得られる税収が失われ続ければ、将来、政府が市場支援に投入できる財源にも影響しかねないと警告した。
 「そろそろ、この国に本気で向き合っている事業者を選別する時期だ」とも述べた。問題は消費者ではなく制度の構造にあり、タイへの長期投資や国内生産を重視する企業が不利にならない環境を政府がつくる必要があると訴えた。
 トヨタ自身も、税体系の見直しで負担が増える場合は受け入れる姿勢を示した。求めているのは特定企業への優遇ではなく、国内生産車と輸入車が同じ基準で競争する「フェアプレー」だと強調した。
 スパコーン氏によると、トヨタは年間約26万台を販売し、物品税を年間約200億バーツ納めている。一方、EV市場は年間約12万台で、通常の物品税に換算すれば約100億バーツになる。このうち一部が輸入車となっているため、現在の制度では政府が本来得られる税収の一部を徴収できていないとの試算を示した。
 トヨタはEVそのものに反対しているわけではないとも強調した。タイ国内に投資して生産する自動車メーカーや、タイでEVを生産する意思を持つ企業が、輸入事業者と公平な条件で競争できる制度を求めていると説明した。
 競争についてスパコーン氏は、車種によってトヨタが競争力を持てない場合があることは認めるとしたうえで、「フェアゲームで競争すべきだ」と述べた。「ベルトより下を殴る」ような競争条件は避け、すべてのメーカーが同じ基準のもとで競争すべきだと訴えた。トヨタのBEVを求める顧客には、需要に応じた車種を用意する考えも示した。
 タイの自動車市場について、トヨタは2026年の市場全体の販売見通しを従来の64万~65万台から68万~70万台へ小幅上方修正した。主因は中国からの輸入車の増加だ。一方、トヨタ自身の販売見通しは、ピックアップトラック市場の回復が遅れているためやや下方修正し、年間24万~25万台を見込む。1~7月のピックアップトラック販売は、市場全体で前年同期比2%減の7万1000台だった。
◆日系7割、投資維持・拡大
 日系企業全体でも、タイ事業を維持しながら生産拠点を高度化する姿勢が続いている。タイラット紙は、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査として、在タイ日系企業が原材料費や物流費などの上昇を背景に短期的な景況感には慎重なものの、タイの生産拠点を維持・高度化する姿勢を崩していないと伝えた。
 日系企業の71%超が、タイでの投資を拡大するか、現在の水準を維持する計画を持つ。新たな大型投資だけでなく、既存機械の更新や生産効率の改善、デジタル技術導入による生産性向上を重視する傾向が強い。
 日本企業は今後の世界経済や通商環境の変化に対応するため、タイ政府に税制・金融面での支援や、FTAの拡大による第三国市場へのアクセス改善なども期待している。
 インドネシアをはじめ周辺国が自動車産業誘致を強化するなか、タイにとっては、長年にわたり形成してきた日系自動車メーカーや部品産業の集積を維持しながら、EV時代に対応した新たな競争条件を構築できるかが課題となる。タイラット紙が伝えた政府側の危機感と、マティチョン紙が報じたトヨタ側の要求は、いずれも国内メーカーが長期的に投資できる公平な事業環境づくりが焦点になっていることを示している。

[経済ニュース]
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[閣議決定]
2026年8月11日

[為替・株式相場]
8月10~8月14日

[商品市場]
バンコク首都圏の燃油小売価格
天然ゴム)

[金融市場]
外為相場
商業銀行預金・貸出金利

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