2026年10月28日(水)号

1~9月の投資申請額1.7兆バーツ突破=タイを世界のAIサプライチェーンへ

 投資委員会(BOI)は10月26日、1~9月の投資申請が1954件、投資予定額は1兆7074億3000万バーツとなり、前年同期比28%増加したと明らかにした。デジタル産業が1兆1700億バーツ超と最大で、電子・電機産業、農業・食品産業が続いた。地政学的圧力や急速な技術革新を背景に世界規模で生産・投資拠点の再編が進むなか、タイへの投資はデジタル、AI、半導体などの新産業と、農業・食品など従来から強みを持つ産業の双方で拡大している。
 ナリット・トゥードサティラサック事務局長[=写真]は、世界的な投資移転が続くなかでも、タイへの投資申請額は引き続き増加していると説明した。デジタル、電子、農業・食品産業が重要な牽引役となっており、タイの投資先としての強みに加え、規制やインフラの改善に対する投資家の信頼が反映されているとの見方を示した。


 政府が進める投資迅速化メカニズム「タイランド・ファストパス」や、将来産業に対応する人材育成措置「スキルブリッジ」も、投資プロジェクトの具体化を後押ししている。
◆デジタル投資1.17兆バーツ超、前年同期からほぼ倍増
 産業別では、デジタル産業の投資申請が139件、投資予定額は1兆1700億バーツ超に達し、全産業で最大となった。投資額は前年同期からほぼ倍増した。
 これに続く電子・電機産業は262件、1893億7000万バーツで、前年同期比7%増加した。AI技術の成長に加え、半導体や電子部品を主要な構成要素とする新製品の市場拡大を背景に、世界のデジタル事業とエレクトロニクスの製造拠点の拡張が進んでいる。こうした流れが、タイにおける関連サプライチェーンへの新規投資や既存生産拠点の増強につながっている。
 特にAIのサプライチェーンに関連する事業に限ると、投資申請は111件、投資予定額は1兆2000億バーツを超えた。
 対象分野は、データセンター、データホスティング、クラウドサービス、チップ設計、半導体・集積回路の製造または検査、電子部品、プリント回路基板(PCB)、光ファイバー、光学部品・モジュールなどのフォトニクス製品、電力供給・変換システム、AIサーバー、ハードディスクドライブ(HDD)・同部品など、AIインフラの川上から川下まで幅広い。
 主要な投資申請企業には、半導体・集積回路の検査事業を手掛けるアナログ・デバイセズ(ADI)が含まれる。このほか、プリント回路基板や電源供給、電力変換、電力制御など各種電力システムを製造するデルタ・エレクトロニクス、先端技術を用いたHDDの生産能力を拡張するウエスタン・デジタル・ストレージ・テクノロジーズ、高速光信号送受信装置などのフォトニクス機器を製造するイーオプトリンク・テクノロジー、ネットワークスイッチ、メインボード、AIサーバーを製造するセレスティカなどがある。
 AI産業やデータセンター産業の成長に伴い、サーバーやデータ保存システム、高速データ送受信装置、電力供給システム、冷却システムなど、関連機器・支援システムの需要も拡大している。
 BOIは、こうした需要が機器メーカーによるタイへの投資をさらに呼び込むとみている。同時に、国内事業者にとっても、部品生産、システム設置、保守などに参入する機会が広がる。データセンターへの大型投資と、タイがすでに持つ電子産業の生産基盤を結びつけることで、AIのサプライチェーン全体に関わる国内事業者への収入拡大につなげる考えだ。
◆農業・食品は59%増、国内原料の高付加価値化進む
 新産業への投資が急速に拡大する一方、タイが従来から競争力を持つ農業・食品産業でも投資が大きく伸びた。同産業の投資申請は218件、投資予定額は801億9000万バーツで、前年同期比59%増加した。
 最新技術を利用した食品・飲料の製造、飼料、加工澱粉、天然原料からの抽出物、ゴム製品のほか、農産物または農業廃棄物を原料とする製品・包装などが含まれる。
 投資奨励を申請した主要企業では、ネスレがコーヒーとペットフード、タイ・イナバ・フーズがペットフードの製造事業を申請した。特殊な性質を持つ加工澱粉の製造ではサイアム・クオリティ・スターチとサイアム・モディファイド・スターチ、スナック菓子ではユーロピアン・フードなどが投資を計画している。
 タイの農業・食品産業そのものを高度化するとともに、国内で生産される農産物やその他の原料の利用拡大にもつながる。原料をそのまま供給するだけでなく、より多様で付加価値の高い製品に加工することで、国内に残る経済価値を高める機会にもなる。
 BOIは、こうした投資動向について、世銀が「デジタルサービス、先端製造、農業・食品」をタイ経済の牽引役として質の高い雇用を創出するポテンシャルを持つ産業群と評価していることとも一致するとしている。
 また、農業・食品を中心とする既存の産業基盤を強化しながら、デジタル、AI、半導体、先端電子、EV、航空機部品、自動化・ロボットなど、新たな成長産業の基盤構築が並行して進んでいることを示している。
◆エネルギー/インフラ事業は313件、全産業で最多
 産業基盤を支えるエネルギー/インフラ事業への投資も引き続き活発だった。投資申請件数は313件と全産業で最も多く、投資予定額は598億7000万バーツ。
 主な投資分野は、太陽光、風力、バイオマス、バイオガスなどを利用する再生可能エネルギー発電のほか、工業団地や工業用水の生産など、製造業に不可欠なインフラとなっている。
 BOIは、こうした投資がタイの産業基盤の受け入れ態勢を高めるうえで重要な役割を担うと位置付ける。特に、先端技術を利用する製造業や現代型産業では、安定したエネルギー供給とインフラが不可欠となる。
 加えて、国際貿易で今後一段と重要性が高まるクリーンエネルギーへのアクセスを確保することも、タイの生産拠点としての競争力を維持するうえで重要になる。
 このほかの産業では、物流・サービス事業が236件、518億2000万バーツ、自動車・同部品産業が191件、363億4000万バーツ、鉱物・金属・素材産業が183件、284億6000万バーツ、化学・石油化学産業が178件、221億6000万バーツ、機械・自動化・ロボット産業が122件、188億8000万バーツだった。
◆中部・東部で申請額の93%、南部も40%増
 地域別では、中部の投資申請が778件、9552億6000万バーツとなり、投資額で最大だった。東部が856件、6323億2000万バーツで続いた。
 両地域はタイの主要な産業集積地で、合わせて全国の投資申請額の93%を占めた。大型デジタル投資や電子産業、製造業の投資が既存の産業インフラが整った地域に集中していることを示している。
 一方、南部の投資申請額は341億4000万バーツで、前年同期比40%増加した。
 主な投資事業はホテルと農業・食品で、パーム油生産、ゴム加工・ゴム製品など。
 県別ではプーケット、パンガー、ソンクラー、スラタニの投資予定額が多い。観光産業と豊富な農業原料という南部の地域特性を生かして付加価値を高め、雇用を創出する余地が広がっている。
 このほかでは、東北部の投資申請額が239億3000万バーツ、北部が126億8000万バーツ、西部が89億6000万バーツだった。
◆FDIは62%増、1兆5507億バーツ
 外国直接投資(FDI)も大幅に増加した。1~9月の外国投資による投資申請は1309件、投資予定額は1兆5507億8400万バーツとなり、前年同期比62%増加した。
 世界のサプライチェーン構造が変化するなか、大型投資プロジェクトがタイに流入していることに加え、投資先としてのタイの潜在力や受け入れ態勢に対する海外企業の信頼を反映している。
 国・地域別の投資額上位5か国・地域では、シンガポールが214件、1兆1645億9500万バーツで最大だった。中国は493件、633億9000万バーツ、英国は15件、483億1100万バーツ、日本は192件、454億7800万バーツ、台湾は70件、432億4300万バーツだった。
 外国投資の多くは、デジタルインフラ、半導体、電子・電機事業に集中している。このほか、食品・飲料、飼料、自動車・同部品、機械・高精度部品、金属製品、化学製品でも大型投資が進んでいる。
◆認可額1.5兆バーツ、雇用11万6000人超
 投資申請だけでなく、認可や実際の投資実行に近い段階でも大型プロジェクトが積み上がっている。
 1~9月にBOIが投資奨励を認可したプロジェクトは1951件、投資額は1兆5126億バーツだった。
 これらのプロジェクトが実行された場合、タイ人の雇用は11万6000人以上増加する見込み。国内の原材料・部品の使用額も年間6930億バーツ以上に達し、年間1兆9600億バーツ以上の輸出額を生み出すとされる。
 特に国内原材料・部品の利用拡大は、タイ企業が大型投資プロジェクトのサプライチェーンに参入する機会を広げる。部品生産、原材料調達、関連サービスなどを通じ、外国企業や大企業による投資の効果を国内企業に波及させることにつながる。
 実際の投資に最も近い段階となるBOI証の発給は1961件、投資額は1兆477億1000万バーツで、10%増加した。
 BOIは、BOI証の発給額が1兆バーツを上回ったことについて、近い将来に1兆バーツを超える投資資金が実際の経済活動に流入することを示す兆候とみている。
◆既存工場も高度化、生産性と長期競争力を強化
 BOIは新規投資の誘致だけでなく、タイ国内にすでに存在する産業基盤の高度化も進めている。
 「スマート&サステナブル・インダストリー」措置では、1~9月に196件、投資予定額204億3100万バーツの申請があった。生産効率を向上させるための機械更新、省エネルギーや再生可能エネルギーの利用、デジタル技術の導入、生産・サービス工程への自動化・ロボットの導入など。
 こうした投資は、企業の生産性を高めるとともに、エネルギーや人件費を含むコスト削減につながる。新規の先端産業を誘致するだけでなく、既存産業も技術面で底上げすることで、タイの産業基盤全体が長期的な競争力を維持できるようにする狙いがある。
 ナリット事務局長は、9か月間の投資申請額が1兆7000億バーツを超えたことについて、投資の重点がデジタル産業や先端技術産業へ一段と移っていることを示していると説明した。インフラ、機器生産、関連サービスの各分野で、タイがAIのサプライチェーンにおける役割を拡大する機会が生まれているとの認識を示した。
 BOIは、新規投資の誘致と既存産業基盤の高度化を並行して進める方針。技術と人材の育成を重視するとともに、タイ企業が先端技術のサプライチェーンに参入することを促し、国内でより多くの付加価値を生み出すことで、タイ産業の長期的な競争力強化につなげる考えだ。

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