2026年7月16日(木)号

中銀がグレーマネーの監視強化=情報連結で資金追跡を高度化

 タイ中央銀行は、グレー経済や資金洗浄の取り締まりを強化するため、金融機関やデジタル資産事業者、金販売店などの情報を連結する監視体制の構築を進める。不審な資金移動の監視を強化するとともに、関係機関が資金の流れを一体的に把握できる仕組みを整え、詐欺資金や不正資金の流通経路を遮断する。
 中銀は、タイ経済の構造的課題と位置付けるグレー経済への対策を強化するため、金融機関や決済プラットフォームに対し、不審な資金移動の監視を一段と強化するよう求めた。7月13日に開いた南部支店主催の年次セミナー「不確実な世界で南部企業はどう適応するか」で、ウィタイ・ラタナコーン総裁[=写真]は、銀行、決済プラットフォーム、両替業者などに対し、不審な資金の流れを厳格に監視するよう要請したことを明らかにした。


 この取り組みは、不正資金取引の防止とグレーマネーの抑制を図る対策の一環。中銀はグレー経済を、タイ経済の持続的な成長を阻む重要な構造的課題と位置付けている。ウィタイ総裁は、「銀行、電子マネー事業者、決済ゲートウェイなど認可を受けた金融サービス事業者が、違法行為やグレー経済、汚職に関わる取引に関与することはあってはならない」と述べた。
 また、不正資金への対応は経済や金融制度への信頼を維持するうえでも最優先課題だと強調した。このため中銀は監督を一段と強化している。すでに不審な資金移動を監視し、不正取引を抑制するための複数の措置を導入した。
 4月1日からは、500万バーツを超える現金を引き出す利用者に対し、資金の出所申告を義務付けた。その結果、不審な取引は約35%減少した。中銀は今後、この削減率を70%まで高めることを目指す。
 さらに今年第4四半期には、500万バーツを超える現金の預け入れについても資金の出所申告を義務付ける予定で、グレーマネー対策をさらに強化する。
 ウィタイ総裁は、「中銀がなぜこの問題に取り組むのか疑問に思う人もいるかもしれないが、紙幣を発行する機関であり、通貨への信頼を守る責任がある」と説明した。また、デジタルプラットフォームを通じたバーツ建て金取引の監視も強化している。総裁は、こうした取引がタイ経済の実態とかけ離れたバーツ相場の変動を招き、グレーマネーに利用されている可能性もあると指摘した。
 監視強化後は、バーツ相場と金価格の相関係数が0.8から0.45へ低下したという。
◆資金経路の抜け穴封鎖
 一方、疑わしい金融取引の追跡・検査強化に向けた金融情報連結小委員会の委員長を務めるエクニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相[=写真]は、コールセンター詐欺団などが国民からだまし取った資金は、1か所にとどまることなく、痕跡を消すため複数の段階を経て移動すると説明している。資金はまず銀行口座に振り込まれ、直ちに別の口座へ送金される。その後、追跡を困難にするためデジタル資産へ換えられる。さらに、売買しやすく短時間で現金化できる金の購入に充てられ、最後は隠れみのとして設立された会社を経由して国外へ流出するケースが多い。
 これまでの課題は、この資金経路の各段階を担当する機関が、それぞれ別々に情報を保有していたことだ。タイ中央銀行は銀行システム内の資金移動、証券取引等監視委員会事務局(SEC)はデジタル資産、資金洗浄防止取締事務局(AAMLO)は報告を受けた疑わしい取引、商業省事業開発局は法人構造しか把握できず、資金の流れ全体を一貫して追跡できる機関は存在しなかった。このため、各機関が適切に業務を遂行しても、資金が次の段階へ移るたびに追跡から漏れるおそれがあった。
 こうした状況を受け、小委員会が7月13日の会合で進捗を報告した4つの措置は、それぞれ独立した施策ではなく、違法資金の流れに沿って抜け穴を一つずつ封じる仕組みとなる。一つだけ封鎖しても、詐欺グループは別の経路へ資金を移すだけとなる。
 第1は金販売店への対応。中銀は、オンラインで販売する大手金販売店に対し、バーツ建ての取引の報告を義務付けた。金融機関には、大量に金を購入する顧客のリスクを検査させる。
 第2はデジタル資産への対応。SEC事務局は、プラットフォーム事業者に対し、送金ごとに送金者と受取人の情報を相互に送付する「トラベルルール」の適用を義務付け、デジタル資産が追跡不能な資金の受け皿となるのを防ぐ。
 第3は異常取引の迅速な通報。AMLOは、事業者に対し、異常取引を電子システムで直ちに報告するよう求める。報告の遅れによって資金が追跡困難になる事態を防ぐ狙いだ。
 第4は名義貸し会社への対応。事業開発局は、外国人が共同出資者や取締役となり、名義貸しの疑いがある法人を厳格に調査する。資金洗浄によって資金を合法資金に見せかける最後の受け皿となるのを防ぐ。
◆情報連結で監視高度化
 4つの措置を一体的に機能させる中核システムが、小委員会が導入を進める「Consent-driven Hub for Exchange of Compliance Knowledge and Encrypted Data(CHECKED)」だ。CHECKEDは、銀行、デジタル資産事業者、金販売店、監督機関を結び、相互に情報を共有するプラットフォームとして機能する。情報へのアクセス権限を厳格に管理し、定められた基準に基づき、必要かつ同意を得た情報だけを共有するため、無関係な一般国民の個人情報が不用意に開示されることはない。
 従来は、各機関の調査担当者が一つの事案に関する情報の一部しか把握できなかった。しかし、CHECKEDによって情報を連結すれば、関係機関は資金の流れ全体を同時に把握でき、他機関の対応を待たずに資金の流れを遮断する判断を下せる。
 この仕組みにより、被害者はだまし取られた資金の差し押さえや被害金の返還を受けられる可能性が高まる。複数の機関へ順番に情報提供を求める必要がなくなるためだ。
 一般国民にとっては、金やデジタル資産、隠れみの会社を利用した資金洗浄ルートを同時に封鎖することで、タイを資金の通過地点として利用する犯罪組織のコストが上昇し、長期的には新たな被害の減少が期待される。
 また、国としては、情報を連結した監視システムの導入によって金融監督基準の国際水準への引き上げが期待される。資金洗浄リスクの高い国との指定を回避し、外国人投資家の信頼低下や、タイ企業全体の国際取引コストの上昇を防ぐ効果も見込まれる。
 今後、小委員会は、あらゆる金融仲介機関を網羅できるよう情報連結の対象を拡大する。「Connect the Dots(点と点をつなぐ)」の考え方のもと、各機関が保有する情報を一つの全体像として結びつける。情報量が増え、情報連結が迅速になるほど、詐欺グループが利用してきた抜け穴は狭まる。
 将来的には、連結したデータベースを活用して取引主体のリスクを評価し、被害の未然防止につなげる考えだ。小委員会が進める「Connect the Dots」は、タイの金融システムの透明性、公平性、安定性の向上につながると期待される。

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