2026年8月26日(水)号

FTI、対米貿易協定の早期妥結要請=K字型回復に政策対応、国内需要喚起も

 タイ工業連盟(FTI)のピムチャイ・リーイサラヌクン会長[=写真]は、政府が進める米国との相互貿易協定(ART)交渉について早期妥結を支持する考えを示す一方、タイの産業部門では企業規模や業種によって回復に大きな差が生じる「K字型」の傾向が鮮明になっていると指摘した。米国向け輸出の安定と拡大を図りながら、国内では需要喚起や生産制限の緩和を進め、製造業全体に成長を波及させる政策対応が必要だとしている。FTI広報部が8月25日発表した。


 ピムチャイ会長は、8月27日~9月1日に予定するタイ代表団と米国側の協議について、未解決の課題を前進させる重要な機会になるとの見方を示した。商業省による交渉を通じ、両国にとってバランスが取れ、公正で相互利益につながる合意に達することを期待した。
 FTIによると、ART交渉はタイの工業界にとって極めて重要だ。2026年上期は米国がタイ最大の輸出市場となり、輸出額は471億4460万㌦と前年同期比41.1%増加した。タイの輸出総額に占める比率は24.0%に達した。関税や貿易ルールの明確化は、タイ企業の受注や生産、雇用、投資判断に直接影響する。
 タイから米国への主要輸出品は、コンピュータ・同部品、ハードディスクドライブ、電子部品・半導体機器、変圧器、機械、ゴム製品・タイヤ、自動車部品、エアコン、宝飾品、農産物・加工食品など幅広い。両国の貿易関係は、先端技術産業からタイに大きな収入をもたらす主要産業まで広範囲に及んでいる。
◆ART、関税以外の枠組みも重視
 FTIは、ART交渉の焦点を関税率の引き下げだけに限定すべきではないと指摘した。貿易の確実性を高め、各種貿易措置による障壁やリスクを減らし、タイと米国の貿易・投資をバランスの取れた形で拡大することが重要だとしている。
 両国企業がサプライチェーンを結び、投資を拡大し、共同で経済価値を生み出す機会を広げる必要もある。ARTを通じた経済関係を具体的で持続可能な相互利益につなげ、単なる関税面での提案交換ではなく、貿易、投資、技術、雇用がそろって成長できる経済パートナーシップを構築する枠組みとして活用すべきだとした。
 貿易の均衡を図る際には、貿易収支の数字だけで判断せず、両国の経済関係を幅広い側面から検討する必要があるとも指摘した。タイ政府の推計では、タイの対米貿易黒字の少なくとも30%は、タイに投資し、生産拠点として活用する米国企業による輸出から生じている。
 こうした米国企業はタイで生産した製品を輸出し、得た収入や利益を米国の親会社へ還元している。タイを生産拠点として利用することは、米国側のサプライチェーン強化にも寄与しており、貿易収支の数字だけでは両国間の経済関係の実態を十分に把握できないというのがタイ側の主張だ。
 一方、タイは国内需要があり、国内生産だけでは不足する品目について、米国からの輸入を増やす用意があるとしている。対象にはエネルギー、航空機・航空機器、機械・高度技術機器、化学品、原材料、一部の農産物などが含まれる。ただし、輸入の拡大は実際の国内需要に沿って進め、経済の安定にも配慮し、農家や中小企業(SME)、国内メーカーに過度な影響を及ぼさない形で実施すべきだとした。
 FTIは、バランスの取れた制度を構築できれば、タイにとって重要な米国向け輸出市場を維持しながら、米国企業とタイ企業が共同で将来のサプライチェーンを構築する新たな機会も生み出せるとの見方を示した。
◆産業回復、企業規模や業種で格差
 一方、国内経済では産業部門の回復格差が鮮明になっている。ピムチャイ会長は、今年第2四半期のタイ経済が前年同期比1.9%成長したことについて、地政学的緊張やエネルギーコストの圧力が続くなかでも成長を維持できていることを反映したものだと評価した。ただし、回復は均一ではなく、明確なK字型の様相を呈しており、FTI自身の調査でも裏付けられているという。
 最新の7月のタイ工業部門信頼感指数調査では、大企業の平均指数が105.5ポイントだったのに対し、中小企業は75.3ポイントにとどまった。産業別では電気・電子産業が109.0ポイントだった一方、化学産業は59.7ポイントで、唯一連続して低下した。事業規模と業種の両面で「2つの速度の経済(Two-Speed Economy)」が実際に生じていることを示している。
 第2四半期の民間消費は前年同期の3.3%増から1.9%増へ減速し、平均設備稼働率は前年同期比3.2%減の57.47%にとどまった。TISI全体の平均は86.1ポイントだった。上期の輸出の伸びも主に電子製品に集中し、その他の商品群全体の伸びは限られた。回復が特定の製造部門に限られている現状とも一致している。
 FTIは、稼働率低迷の原因を大きく3つに分け、それぞれ異なる対策が必要だと分析している。
 第1は、エネルギー・原材料コストの構造的圧力に加え、海外の過剰生産能力に直面している産業だ。化学品、石油化学、鉄鋼、建設資材などが該当し、中東情勢による原材料輸入への影響が追い打ちをかけている。
 第2は、政策的な条件によって生産を制限されている産業で、製油所などが該当する。これまではフル操業に近い状態を維持してきたが、輸出が制限され、石油製品の貯蔵タンクが満杯になったため、減速する国内需要に合わせた生産調整を余儀なくされている。
 第3は、新規投資による生産能力の拡大が生産の伸びを上回っている産業だ。電子部品、プリント基板などが該当する。FTIは、順次稼働を開始している投資のプラスの兆候とみている。
◆「Buy Thai」で内需喚起
 今後の経済政策について、FTIは並行して取り組むべき2つの方向性を提案した。第1は「Buy Thai」プロジェクトを通じた国内需要の喚起だ。K字の下降線に位置する織物、衣料品、靴、家具、家庭用品など、労働集約的で設備稼働率に余力がある最終製品群を対象とすべきだとしている。
 これらの設備稼働率は現在37~50%で、注文が入れば即座に増産できる。輸入商品のダンピング対策と並行し、販売チャネルの支援や国産品購入の呼びかけを行ない、資金をタイの生産者へ確実に行き渡らせることが重要だと指摘した。
 第2は、生産制限を解除する対策だ。石油精製の上限枠の見直しや、国内需要と備蓄量を上回る分について条件付きで石油輸出を解禁することなどを挙げた。小売価格の管理は既存のマージン機構を通じて継続できるとしている。
 政府公共事業の加速や「Made in Thailand(MiT)」基準の活用も、鉄鋼や建設資材の受注回復に直接寄与するとした。製造業向け原材料の安定確保やエネルギー価格構造の管理についても政策対応を求めた。
 FTIの試算では、設備稼働率を現在の約57.5%から62.5%へ5ポイント引き上げることができれば、工業部門の総生産を約1400億バーツ押し上げられる。GDPの0.7%に相当する。この一部は「Buy Thai」が直接対象とする最終製品群によるもので、別の重要な部分は政策的制限の解除によるものだ。
◆投資13%増、国内への波及が課題
 投資は経済を支える重要な力になっている。第2四半期の総投資は9.1%増加し、民間投資は第1四半期の10.1%増から13.4%増へ加速した。特にテクノロジー、電子機器、AI、データセンターなど、潜在力の高い産業への投資の勢いを反映している。
 ただし、最大の課題は、こうした投資による利益を国内経済へより広く行き渡らせることだ。上期にBOIの投資認可を受けたプロジェクトでは、タイ国内の原材料・部品の使用割合(ローカルコンテンツ)は原材料総額の約42%にとどまっている。
 FTIは、タイの生産者やサプライヤーとの連携、MiT製品の活用、技術移転、高付加価値人材の育成や雇用創出を通じ、この比率を引き上げる方針だ。米国とのART交渉を通じて主要輸出市場の安定を図る一方、国内では需要喚起や生産制約の緩和、投資の国内波及を進め、投資拡大を長期的なタイ製造業の競争力強化につなげたいとしている。

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