2026年6月5日(金)号

ウィタイ中銀総裁、成長率2%見通し=戦争影響も政府の対策が下支え

 タイ中央銀行のウィタイ・ラタナコン総裁[=写真]は6月2日の報道陣との懇談で、今後のタイ経済・金融情勢の見通しや、中銀が実施している重点支援策の進捗、今後の主要政策の方向性について説明した。


【経済・金融見通し】
 中銀は、2026年のタイ経済について、中東での戦争の影響を受けて成長が鈍化するとみている。ただし、政府の4000億バーツ借入緊急勅令に基づく経済対策が下支えとなり、経済成長率は2%まで押し上げられる見通しだとしている。
 経済成長の主な原動力は民間消費となる見込み。年間の民間消費の成長率は従来の1.6%から2.6%へ上昇すると予想した。特に、「タイチュアイタイ・プラス」事業が始動する2026年第3四半期に消費の拡大効果が顕在化するとみている。
 ただし、短期的な景気刺激策の効果が薄れることから、2027年の経済成長率は再び減速するとの見方を示した。
 一方、2026年の一般インフレ率は2.9%になると予想したが、4000億バーツ借入措置の効果を織り込むと、インフレ率はわずかに上昇し、3.0%となる見通し。中東戦争によるエネルギー価格上昇やコスト転嫁の影響から、今年の一部の月には一般インフレ率が4~5%程度まで上昇し、目標レンジを上回る可能性があると指摘した。その後は、中東情勢の緩和が見込まれることに加え、2026年の高い物価水準の反動もあり、2027年の一般インフレ率は1.4%まで低下するとの見通しを示した。
 なお、今回のショックは供給側の要因によるものであり、一時的な性格を持ち、来年中には解消に向かう。このため、世界の多くの中央銀行と同様、金融政策委員会(MPC)も、この種のショックに対しては政策変更を行なわず、影響を一時的なものとして見極める姿勢を取っている。金融政策は需要側に作用する手段であるため、供給側の問題を解決する効果が限られることが理由だ。ただし、中銀は関連するリスクを引き続き注意深く監視していく方針。ウィタイ総裁は、インフレ率が高止まりし、長期間にわたって国民の購買力を損ない、広範な需要に悪影響を及ぼす事態を防ぐため、必要に応じて政策を調整する用意があるとしている。
 一方、足元の大幅な経常収支赤字については、短期的な要因によるものとみている。4月のタイのエネルギーの純輸入額は74億㌦に達した。国際原油価格の上昇による輸入価格の上昇に加え、国内での石油備蓄の拡大を背景として輸入量が増加したことが主因だ。その結果、4月の貿易収支は68億㌦の赤字、経常収支は76億㌦の赤字となった。
 中銀はこれらの要因を一時的なものと位置付けている。中東情勢が落ち着けば経常収支は徐々に改善し、また、輸出が12~13%増加すると予測されることから、改善傾向が強まると予想している。2026年通年の経常収支尻は均衡に近い水準、もしくは小幅の赤字になる見込みで、2027年には再び黒字へ転じるとみている。
 ウィタイ総裁は、経常収支赤字が必ずしも懸念材料ではないとの考えも示した。特に、輸入が経済の潜在力や競争力を高めるための投資である場合、経常収支赤字を過度に問題視する必要はないとしている。
【重点的措置の実施状況と進捗】
 経済環境の変化を踏まえ、中銀は経済・金融システム全体の安定維持に加え、構造的課題の解決に向けた重点的措置を通じて経済成長を支援する必要があると考えている。
 この8か月間で実施した重点的措置の一つが、国民や中小企業(SME)への負担軽減に向けた手数料の標準化と引き下げだ。同措置は官報に掲載済みで、技術革新に合わせて手数料を実際のコストに見合った水準とし、その根拠を明確にするとともに、業界全体で一定の基準を設けた。銀行システムの長期的な健全性の向上につながるとともに、国民やSMEの負担軽減を期待している。
 措置の内容は、4分野・計19項目の手数料について引き下げまたは廃止するものとなっている。内訳は、預金口座関連3項目、電子決済カード関連3項目、決済取引関連8項目、SME向け融資関連5項目。
 今回の手数料改定による銀行への影響は限定的とみている。銀行システム全体の純利益に対する影響は、およそ1.5~2.0%程度にとどまる見通しだ。なお、この措置は金融機関に準備期間とシステム調整の時間を確保するため、2026年7月1日から10月1日にかけて段階的に施行される。
 中銀はバーツ相場の安定化措置として、オンラインプラットフォーム上での金取引の監督強化と、大手金販売業者に対する重要な金取引情報の報告義務化を実施した(2026年3月1日発表)。
 バーツ相場と金価格の相関関係は低下している。従来は80%に達していたが、現在は40%程度まで低下した。金価格下落の影響も一部含まれている可能性があるものの、全体的な金取引額、特にプラットフォームからの現物金引き出し量は明らかに減少している。
 また、望ましくない取引の監視措置として、500万バーツ以上の現金引き出し取引に対する監督強化と、金融機関による不審取引の報告義務を導入した(2026年4月1日発表)。この措置により、500万バーツ以上の現金引き出しは大幅に減少した。4月には、現金引き出し件数が2026年第1四半期平均と比べて28%減少し、引き出し金額も25%減少した。減少傾向は5月も続いている。
 今後、中銀は500万バーツ以上の現金預け入れと現金両替についても追加監督を行なう予定。対象取引については、資金の出所と取引目的の申告を義務付ける。望ましくない取引を抑制するとともに、金融システムの透明性向上を図る。
【経済下支え措置】
 ・「ピットニーワイ・パイトーダイ(早期債務整理で再出発)」プロジェクトは個人債務者の不良債権(NPL)問題解決を支援する措置で、5月31日時点で、債務再構成の契約を結んだ債務者は10万2277口座となった。年末までに20万口座へ増加する見通し。このほか、金融機関が同プロジェクト参加前に債務再構成を進めている案件が約9万3000口座ある。これにより、少なくとも30万人以上の国民のNPL問題解決につながる見込み。
 ・SMEs Credit Boostは成長可能性のある企業向けの新規融資について、信用リスクを分担する仕組みとして導入された。中小企業向け融資残高は現在14四半期連続で減少している。一因は、信用リスクコストの上昇と景気減速に伴う融資需要の低下にある。
 金融機関は金融機関再建開発基金(FIDF)への拠出金の減額分を活用し、信用リスクを分担する仕組みに協力している。5月29日時点で、承認済みの融資額は約54億バーツとなっている。年末までには約400億バーツに達する見通し。中銀は現在、中東戦争の影響を受けた事業者への支援拡大も検討している。

 ・SMEs Secure+は土地担保を考慮した融資審査基準の一時的緩和措置で、すでに14行の商業銀行が参加している。6月中に各銀行が融資商品プログラムを開始する予定だ。2027年6月までに500億バーツの融資実行を見込んでいる。
【実施準備中の措置】
 ・後払い決済サービス(Buy Now Pay Later:BNPL)に対する監督強化
 主要なBNPL事業者6~8社のデータによると、BNPLの利用は急速に拡大している。2024年の利用額は前年から38%増加した。一方、口座数は2021年の約60万口座から、2024年には約500万口座へ増加しており、年平均でほぼ100%の伸びとなっている。
 BNPLは手軽に利用できる一方で、消費者が知らないうちに利用枠が設定されたり、分割払い契約を結んだりするケースがある。適切な管理が行なわれなければ、消費者が早い段階で債務を抱えたり、不必要な借り入れや無自覚な債務負担につながったりするリスクがある。特に若年層や低所得層は、もともと債務水準や不良債権(NPL)比率が高いことから、影響を受けやすい。
 こうしたリスクを防ぐため、中銀は現在、オンライン売買プラットフォームを通じて商品購入者に融資を提供する事業者に対する監督措置を検討している。最低利用年齢の設定、対象商品の種類や最低購入金額の設定、金利上限の設定、BNPL利用時の申込・承諾手続きの基準整備などを検討している。今年末までに明確な監督方針を示す方針だ。

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