「TH-AIパスポート」=海外依存懸念で業界団体が8項目提言
アヌティン政府が進める「TH-AIパスポート」事業について、業界団体は利用目的の複雑さや国内のイノベーション、生産性向上効果に応じたモデル利用の仕組みを見直さなければ、海外のAIプラットフォームへの高額な補助金制度になりかねないとの懸念を示している。タイAI起業家協会(AIEAT)とテクノロジー分野の専門家によると、タイの開発者支援、国産大規模言語モデル(LLM)、スタートアップ向けクレジット、国内AIインフラ、透明性の高い利用状況の報告などへの支援を強化しなければ、この事業は短期的なAI利用拡大にはつながるものの、持続可能な国のAI基盤の構築ではなく、海外テクノロジー企業への依存をさらに深める可能性があるという。
事業の第1段階では、政府は16億バーツを投じ、15歳以上のタイ国民最大500万人を対象に、高機能な生成AIモデルを無料で利用できるようにする計画だ。同事業は人的資本とAI能力への投資と位置付けられているが、その規模や調達プロセス、費用対効果を巡って疑問の声も上がっている。
◆8項目の提言
AIEATは、予算の効率的活用とタイのAI能力向上の両面で最大限の効果を引き出すため、8項目の提言をまとめた。
第1に、政府はLLM利用時のトークンコストを利用者ごとに最適化するプラットフォーム戦略を策定すべきだと提案した。業務内容に応じて利用権限を設定することで、トークン関連費用を大幅に削減できるとしている。AIトークンとは、LLMが読み取り生成するテキストの基本単位であり、利用料金算定の基準にもなっている。
AIEATは、利用するモデルについて、無料サービスから低コストモデル、高価格モデルへと段階的に活用し、業務内容が基礎的か高度かによって使い分けるべきだと提言した。実際のニーズに応じた資源配分が可能となり、付加価値につながらない支出を削減できるとしている。
第2に、高度なAIモデル向けのトークン利用枠を開発者向けに確保し、高い経済価値を生み出す複雑な業務に限定して利用できるようにすべきだとした。また、開発者がAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由でこれらのモデルを利用できるようにすることで、アプリケーションや新たなサービスを迅速に開発できる環境を整備すべきだとしている。この仕組みにより、特にスタートアップや新規開発者の初期コストを削減できるほか、高い成長可能性を持つ企業による製品開発を後押しし、タイのAI能力向上を加速できるとしている。
第3に、タイで開発されたLLMと関連ネットワークを利用者の選択肢として組み込むべきだと提言した。適切なプライバシー保護とデータセキュリティ対策を前提に、利用データやフィードバックをタイの研究者や起業家へ還元する仕組みを設けることで、国産モデルの継続的な性能向上と海外技術への依存軽減につなげるべきだとしている。
第4に、事業予算の一部を国内AIサーバー増設に充て、研究者や起業家が無料または低コストで資源を利用できるようにすべきだとした。タイ企業が効率的なAIサービスを開発し、海外事業者と競争可能な価格で提供できるようになるとしている。
第5に、この事業を国内AI利用者とタイ発のAI製品・イノベーションを結び付ける橋渡しの役割とし、利用しやすくすべきだと提案した。
第6に、事業内で利用されるすべてのAIモデルについて、トークン利用状況を透明性の高い形で公表する仕組みを整備すべきだとした。実際の利用量を開示することで、利用者の行動や利用パターンを把握できるという。こうしたデータは、将来のトークン配分計画や適切なモデル選定、予算効率の評価に活用できるとしている。
第7に、タイのAIスタートアップからクレジットを購入するための予算の一部を国民や中小企業(SME)へ配布し、AIサービスを無料で試せるようにするべきだと提案した。個人やSMEの生産性向上につながるだけでなく、スタートアップの収益拡大や利用者基盤の形成にも寄与し、タイのAIエコシステムの持続的成長を支援できるとしている。
第8に、AIガバナンスと監査メカニズムを構築すべきと提言した。
協会はこれらの提案について国家デジタル経済社会委員会事務局と協議する予定だ。
一方、電子取引開発機構(ETDA)のサック・セークントード上級顧問は、500万件のAIライセンスを配布するだけでは不十分だと指摘した。利用者がAIを無目的に利用するのではなく、農家や教師、施設管理担当者など数百の職種ごとにAI活用マニュアルを整備し、それぞれの分野で信頼されているインフルエンサーを活用して普及を図るべきだと提案した。
スーパーポールによる「国民のAIに対するニーズ」に関する世論調査によると、タイ国民の間でAIに対する関心と受容が広がっており、回答者の91.2%がAIについて知っている、または聞いたことがあると回答した。また、72.5%が日常生活、学習、仕事、職業活動においてAIを利用した経験があると答えている。
◆政府「透明性確保し推進」
ラリダー・プルートウィワタナー政府副報道官[=写真]は6月6日の会見で、政府は、この調査結果について、タイがデジタル化とナレッジベースエコノミーへの移行を進めていることを示すものと受け止めていると語った。調査では回答者の63.7%が、透明性があり検証可能で、国民に実質的な利益をもたらすことを条件に、政府が「TH-AIパスポート」プロジェクトを実施すべきだと考えていることも明らかになったと述べた。透明性と説明責任を重視し、テクノロジーを生活の質向上や格差是正、経済機会拡大の手段として活用する政府方針と一致しているという。

ラリダー氏は、「今回の調査は、タイ国民がAIを単なる先端技術としてではなく、生活の質向上や雇用創出、所得増、経済機会拡大のための重要な手段と捉えていることを示している。政府はTH-AIパスポートプロジェクトを慎重かつ透明性を持って進め、検証可能な形で実施していく。最も重視するのは国民が実際に得る成果だ」と述べた。
スーパーポールの調査結果は、国民がAIを生計改善や国の競争力向上のために活用することを強く望んでいることを示した。回答者の91.7%は、政府がAI活用を支援し、所得増やコスト削減、事業機会の創出につなげることを望んでいる。88.5%はAIによる国の競争力向上を期待している。87.2%は、すべての人が平等にAIの知識と利用機会へアクセスできることを望んでいる。
また、85.3%はAIによる教育水準向上とタイ人労働者の技能開発を期待している。さらに83.1%と81.6%は、AIが国民の安全確保や子ども、若者、高齢者、障害者などの脆弱な立場の人々への支援に役立つことを望んでいる。
政府は調査結果を踏まえ、国民からの提言を政策立案に反映させる考え。重点分野は、①AIによる所得増加とコスト削減、②国の競争力向上、③デジタル格差の縮小、④教育と労働技能向上を通じた人的資本開発、⑤脆弱層の生活の質向上と安全強化に向けたAI活用の5分野としている。
ラリダー氏は、政府が知識習得のための研修、AIツールへのアクセス、地域学習センターの設置、専門家による助言体制などのAIに関する包括的な支援体制を求める国民の要望も認識していると述べた。「政府はTH-AIパスポートを単なる技術プロジェクトとは考えていない。長期的な人的資本への投資であり、タイ国民がAIを活用して職業を創出し、所得を増やし、新しい時代における競争力を高めるための重要な仕組みだ。すべての国民が平等に利用できるAIエコシステムの構築を進め、透明性を確保しながら、国民に実質的な利益をもたらしていく」と述べた。
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