2026年9月10日(木)号

電源開発計画(PDP)最新版=再エネ・SMR軸に電力政策転換

 タイ政府が策定を進める新たな電源開発計画「PDP2026」の全容が明らかになった。再生可能エネルギーとバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)を軸に、小型モジュール炉(SMR)や炭素回収・貯留(CCS)も組み合わせ、2050年のネットゼロ実現に対応できる柔軟な電力システムへの転換を図る。
 エネルギー政策企画事務局(EPPO)のワタナポン・クローワート事務局長[=写真]が9月8日に公表したPDP2026案は現在、意見聴取の段階にある。従来のように導入する電源や時期を長期にわたって固定する方式を改め、計画期間を2期に分ける。2026~37年は将来の転換に必要な基盤を構築し、38~50年は技術コストや電力需要などを踏まえ、3つのシナリオから方向性を選択する。

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 2050年までのロードマップには、初めて法的拘束力を持つネットゼロ目標を盛り込む。政府当局者は、ネットゼロは任意の目標ではなく国家としての約束になるため、計画に盛り込んだ各措置の着実な実行が重要になると強調している。
 電力政策の課題も、従来の「十分な電力を確保すること」から、脱炭素と新たな需要の双方に対応できるシステムの構築へ移る。データセンターやEVなどによる電力需要の増加にも備える。
 PDP2026では、環境、エネルギー安全保障、電気料金の均衡を図りながら、再生可能エネルギーとBESSを大幅に拡大する。
 電力部門の炭素排出量目標は、従来案の年間66.2MtCO₂e(百万トン二酸化炭素換算)から19.1MtCO₂eへ大幅に引き下げる。電力部門と運輸部門を合わせるとタイの年間温室効果ガス排出量の70%以上を占めており、両分野の転換がネットゼロ達成の鍵を握る。
 クリーンエネルギーが電源構成に占める比率は現在の約20%から、2050年には65~89%へ上昇する見通し。新たな石炭火力発電所は建設せず、既存発電所も順次廃止する。現在、発電量の約60%を占める天然ガスは2037年までに29%未満へ引き下げる。ただし、低炭素技術と組み合わせ、電力系統の安定性を確保する移行期の燃料として引き続き活用する。
 2037年までは各シナリオに共通する基盤構築を進める。第1期に当たる2026~37年の発電容量は5万900MWを計画する。2038~50年については、①CCS主導、②バランス型ネットゼロ、③再エネ主導の3つの選択肢を設けた。発電容量はCCS主導で76.35GW、バランス型ネットゼロで96.25GW、最エネ主導で149.9GWを想定する。
 複数の選択肢を残すのは、技術コスト、国内の電力需要、ネットゼロに関する規則などが今後変化する可能性があるため。LNG価格、クリーンエネルギー発電事業に必要な投資コスト、BESS価格、CCSやSMRの実用化に向けた準備状況などを踏まえ、最終的な方向性を判断する。計画期間全体を通じ、国民が負担する平均電力料金を1ユニット当たり4バーツ以下に抑えることも条件とする。
◆SMR9000MW、BESS40GW超を導入
 PDP2026で大きな転換を示すのが原子力発電の導入だ。再エネを大幅に増やす一方、電力部門の炭素排出量を抑え、安定した電源を確保するため、補完的なクリーン電源としてSMRを活用する。
 計画するSMRの発電容量は合計9000MWに達する。
 EPPOによると、タイ発電公団(EGAT)が国内初のSMR事業を先行して実施し、出力300MWの1基を2037年に運転開始する予定。安全性を確保し、事業を円滑に進めるため、導入初期はEGATが管理する。
 国際原子力機関(IAEA)によると、SMRは1基当たり最大300MWの原子力発電技術で、従来型原子炉の約3分の1の規模に当たる。
 規制や運用の枠組みを構築した後は、小規模発電事業者(SPP)に分類される民間を募り、合計8700MWの追加SMRを開発・運営させる計画。政府当局者によると、分散配置するSMRは、データセンターや先端技術産業など電力消費量が大きい産業への電力供給を担う。
 タイのPDPに原子力発電が盛り込まれるのは今回が初めてではない。2010年のPDPでは2020~21年までに2000MWを導入する計画を示していた。しかし、2011年に発生した日本の福島原発事故を受け、世界的に原子力発電の安全性への懸念が高まり、タイも計画を撤回した。
 政府当局者は現在、SMRは従来型原子炉より規模が小さく、高度な安全機能も備えるため、原子力発電を導入する現実的な選択肢になり得るとみている。
 一方、将来の電源構成がどのシナリオになっても、BESSは共通して重要な役割を担う。2038~50年には、CCS主導、バランス型ネットゼロ、再エネ主導のいずれを選択しても、40~40.5GWのBESSが必要になる。3つのシナリオ間で必要容量に大きな差はない。太陽光や風力などは発電量が天候や時間帯に左右されるため、再エネの比率が高まるほど、余剰電力を蓄え、需要に応じて放電するBESSの重要性が増す。
 太陽光や風力などクリーンエネルギーの発電能力についても、すべてのシナリオで増強投資を計画している。
 3つのシナリオで追加する規模には39.35~114.0GWと大きな幅があるものの、カシコンリサーチセンター(Kリサーチ)は、再エネ事業者は政府の最終判断を待たず、事前に準備を進める必要があるとみている。
 PDP2026は発電設備の拡大だけでなく、電力網そのものの高度化も重視する。デジタル技術を使って電力の需要と供給をリアルタイムで調整するスマートグリッドを導入する。さらに、太陽光発電や蓄電池など各地に分散するエネルギー資源を、一つの制御可能な発電設備のようにまとめて運用する仮想発電所(Virtual Power Plant)も活用する。再エネや分散型電源が増えるなかでも、電力系統の安定性を維持し、需給変動へ柔軟に対応できる仕組みを構築する。
◆技術成熟度と事前準備が成否を左右
 2038年以降の電源構成を決めるうえでは、コンバインドサイクル・ガスタービン(CCGT)、CCS、SMRによる発電能力をどの程度増やし、電源構成にどこまで柔軟性を持たせるかが焦点だ。
 最終的な計画を策定する時点で、各技術の価格や技術成熟度がどこまで進んでいるかによって、適切な電源構成は変わる。技術の成熟によって各電源からの電力購入コストをより明確に把握できるようになれば、政府は電源ごとの経済性を比較しやすくなる。
 電力需要についても同様で、データセンターやEV、先端産業の成長などに伴う需要の実態が明確になるほど、必要な発電容量を判断しやすくなる。
 Kリサーチは、PDP2026の成否を左右するのは事前準備とみている。技術インフラ、炭素の貯留場所の準備・確保、建設投資、各種規制の見直し、労働者の技能開発には長い時間を要する。CCSやSMRを実際に利用する段階になってから準備を始めるのでは、間に合わない可能性がある。
 政策の明確性を高め、タイの電力システム転換を巡る不確実性を抑えることも重要だ。民間企業が長期的な投資計画を効率的に策定できる環境をつくる必要がある。
 PDP2026は、再生可能エネルギーとBESSの拡大、SMRやCCSなど新技術の導入、化石燃料への依存低減を組み合わせる。2037年までは共通の基盤を築き、それ以降は技術コストや需要、制度環境に応じて電源構成を柔軟に選択する。
 従来のように将来の電源をあらかじめ固定する方式から、変化する技術や経済環境に応じて選択する方式へ移行する。2050年のネットゼロと電力の安定供給、電気料金の抑制を同時に実現できるかが今後の焦点だ。

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