2026年9月29日(火)号

半導体委が国家戦略を承認、25年で2.5兆バーツ超誘致

 ナリット・トゥードサティラサック投資委員会(BOI)事務局長は、エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相が議長を務めた9月24日の国家半導体・先端電子産業政策委員会(セミコンダクターボード)[=写真]で、「国家半導体・先端電子産業開発戦略」を承認したと明らかにした。タイの半導体産業の方向性を体系的に定め、サプライチェーン全体の構築を目指す。


 戦略では3段階のロードマップを策定する。「チップ・メイド・イン・タイランド」の実現に向け、2030年までの5年間で5000億バーツ、2050年までの25年間で2兆5000億バーツ超の投資誘致を目標とする。産業全体の年間売上高を5兆バーツへ拡大し、23万人超の新規雇用創出も掲げた。
◆3段階で供給網構築
 戦略の柱は、タイが強みを持つ製品群を軸に、半導体産業のサプライチェーン全体を国内に構築することにある。チップの研究・設計、川上のチップ製造、従来型・先端型の組み立て・検査、先端電子産業との連携まで一貫して支援し、タイ企業や人材が世界のサプライチェーンで担う役割を広げる。
 第1段階は2030年まで。チップの組み立て・検査基盤を強化し、先端組み立て・検査へ高度化する一方、川上のチップ製造基盤を構築する。
 第2段階は2040年まで。チップ設計、ウエハー製造、先端技術を使った製造など、川上分野の主だった企業を誘致し、サプライチェーンを補完する。
 第3段階は2050年まで。国内に一貫したサプライチェーンを形成し、タイ企業を「ローカル・チャンピオン」へ育成する。イノベーションを生み出し、世界のサプライチェーンで重要な役割を担う企業を増やす。
 重点製品には、タイの産業基盤と世界市場の需要に合う3分野を設定した。
 第1はフォトニクス。光を使って情報を送受信・処理する技術で、AI、データセンター、高速通信システムの成長を支える。すでにルメンタム、ファブリネット、テラホップなど複数の大手企業がタイに拠点を構えている。
 第2はパワー半導体。電力を制御・変換するチップで、EV、蓄電システム、電力網などで需要が高まっている。インフィニオン、東芝セミコンダクター、ローム・インテグレーテッド・システムズなどがタイに投資している。
 第3はセンサー。タイが持つMEMS分野の能力をIoT、自動化、自動車、スマート機器、医療へ広げる。ソニー・デバイス・テクノロジーなどがすでにタイに拠点を持ち、画像センサーチップを組み立てている。
 3分野はいずれもタイ国内に顧客基盤があり、商業化の機会が明確な技術だ。
 重点製品に加え、集積回路設計と先端組み立て・検査の2分野も強化する。チップ設計センターや設計ツール、試作チップ製造設備へのアクセスを支援する。
 先端パッケージ技術では、バンピング、RDL(再配線層)、ウエハーレベル・パッケージング、パワー・パッケージング、2.5D/3Dパッケージングなどを高度化し、チップ製造の全工程で対応力を備える体制を目指す。
◆税制・人材など5分野で支援
 戦略は5つの主要な仕組みを通じて進める。
 第1は税制優遇、補助金、低利融資などの支援策。特に川上のチップ製造と先端組み立て・検査を中心に、重点企業を誘致するため個別対応型の支援パッケージを用意する。
 第2は高度人材の育成。産業界と教育機関の連携を強化し、人材育成を投資条件と結びつけるほか、海外の高度人材を受け入れやすくする。
 第3は技術基盤の強化。タイ・マイクロエレクトロニクス・センター(TMEC)と研究インフラを高度化し、試作から商業化まで対応できる体制を構築する。
 チップ設計センター、電子回路自動設計(EDA)ツール、先端チップ組み立て・検査のエクセレンスセンター、新たな技術企業を育成するインキュベーションセンターへの支援制度も設ける。タイ国内の知的財産の創出を急ぎ、外国企業とタイ企業の協力を広げ、産業を牽引するローカル・チャンピオンを育成する。
 第4はインフラ。適切なクラスター地域を定め、水、電力、クリーンエネルギー、廃棄物管理、災害対応の準備計画を策定する。
 第5は事業環境。政府規制の見直しや投資家の利便性向上、調達措置、FTAを通じた国内外市場との連携を進め、タイ企業のサプライチェーン参入を支援する。
 次の段階では、戦略を具体化する行動計画を策定する。各分野の目標と実施方針を明確にし、官民合同委員会を通じて政府と民間の取り組みを連携させる。電力システムの対応力や安定性などの課題を早期に解決し、重点企業への積極的な誘致活動も進める。
◆「Siam Silica」で8万6600人
 会合は、戦略を支える人材育成策として「サイアム・シリカ(Siam Silica)」計画も承認した。半導体・先端電子産業に必要な高度人材を育成するもので、高等教育・科学・研究・技術革新省に関係機関との調整を指示した。
 教育機関、研究機関、民間企業、海外パートナーを結びつけ、カリキュラム、研究、実習内容を産業界の実需に合わせる。
 サイアム・シリカでは2030年までに計8万6600人を育成する。内訳は高度技能人材8万4900人、高度研究人材約1700人。専門課程の開発、リスキリング研修、国内外でのインターンシップ、教員、研究者、指導者の育成を通じ、チップ設計、川上のチップ製造、先端組み立て・検査、先端電子産業で増える人材需要に対応する。
 人材育成は国の技術・投資政策とも結びつける。フォトニクス、パワー半導体、チップ設計、チップの組み立て・検査、電子回路基板製造、先端材料から量子技術までを対象とする。
 タイを単なる生産拠点にとどめず、研究者、エンジニア、技術者、タイ企業を育成し、国内での技術開発や付加価値創出への参加機会を広げる。
◆インフィニオン、10月1日にタイ初工場
 タイはこれまで、半導体分野の世界大手から複数の投資誘致に成功している。
 ドイツ最大手の半導体企業、インフィニオン・テクノロジーズは10月1日、サムットプラカン県にタイ初の工場を開所する。同社は自動車用チップとパワー半導体の世界市場を牽引しており、EV、蓄電システム、自動化、データセンター、AIインフラなどの中核部品を供給している。
 新工場には自動化システムとスマート技術を導入し、先端パワーモジュールの生産拠点とする。研究開発センターも設置し、国内サプライヤーネットワークを構築するほか、教育機関と連携して半導体分野のカリキュラムを開発する。
 事業が全面稼働すれば、エンジニア、研究者、技術者、先端製造専門家などタイ人5000人超を雇用する。
 BOIはインフィニオンの投資について、タイを電子機器の組み立て拠点から先端半導体の生産拠点へ引き上げる重要な一歩とみる。パワーモジュールはEVや産業機械、各種電力システムの効率を左右する重要部品で、タイを生産拠点に選んだことは、インフラ、人材、政府の投資奨励策などへの信頼を反映するとしている。
 将来的には、タイの未来産業のサプライチェーン強化に加え、提携サプライヤーによる追加投資も期待する。
◆世界大手の進出相次ぐ
 インフィニオン以外にも、過去2~3年間に複数の世界的な半導体・先端電子企業がタイを生産拠点に選んでいる。
 米国のアナログ・デバイセズはアナログチップ・信号処理チップの世界大手。台湾のフォックスセミコン・インテグレーテッド・テクノロジーは世界最大級の半導体製造装置メーカーの主要サプライヤーで、台湾のZDTは世界最大級の電子回路基板(PCB)メーカー。
 中国のイノライト傘下のテラホップは光ファイバー通信機器・システムの世界大手、マレーシアのMPIはチップ組み立て・検査サービスの世界的企業。BOIは、こうした企業の進出について、タイはゼロから半導体産業を構築する段階ではなく、すでに有力企業の基盤を持ち、「チップ・メイド・イン・タイランド」へ発展できる状況にあるとみている。
 2023年から2026年6月までの3年半で、半導体・先端電子産業の投資申請は879件、投資予定額は計9090億バーツに達した。
 対象は半導体の各製造工程、電子回路基板(PCB)、ハードディスクドライブ(HDD)、AIサーバー、ネットワーク・電力管理機器、自動車向け電子部品、事務機器向け電子部品など幅広い。
 ナリット事務局長は、今回の戦略について、研究・チップ設計から川上・川下の製造、組み立て・検査、タイ企業の世界サプライチェーン参入まで、一貫した半導体産業基盤を構築する重要な一歩と説明した。
 「チップ・メイド・イン・タイランド」の実現には、外資、タイ企業、教育機関、研究機関、政府機関の連携が不可欠と指摘。Siam Silicaをタイ人材育成の重要な仕組みとし、未来産業を担う研究開発者、生産者、事業者を育成することで、タイを世界で競争できる先端技術・イノベーション拠点へ転換する考えを示した。

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