2026年4月24日(金)号

スーパー・エルニーニョの可能性62%=降水量減少で農業・産業に影響懸念

 デジタル経済社会省気象局は、今年6~8月にタイで「スーパー・エルニーニョ現象」が発生する確率が62%に達するとの予測を示した。水資源情報学研究所(HII)は、今年の降水量が過去30年間の平均を下回ると見ており、特に東北部、東部、南部で少雨のリスクが高まっている。
 学識者は、地球温暖化がエルニーニョ現象を加速させているため、かつて乾燥していた地域はさらに深刻な旱魃に見舞われるリスクがあり、従来の場当たり的な解決策では対応が難しいとの見方を示している。このため、政府に対し「洪水・旱魃・汚水」の3つの「水害」を体系的に管理するよう提言している。長期予測の精度は現時点で3か月程度が限界との指摘もあるが、米海洋大気庁(NOAA)および欧州中期予報センター(ECMWF)は、今回の「スーパー・エルニーニョ現象」は26年半ばに始まり、27年初めまで続く可能性があると予測している。太平洋の海面水温が平年より2.5℃以上高くなる見込みで、近代史において最も深刻な事象の一つになると指摘する声もある。
 一般的に「エルニーニョ」とは、太平洋赤道域の東部と中部で海面水温が平年より高くなる現象を指し、世界中の気象パターンに混乱をもたらす。海面水温の上昇が1.5~2.0℃を超えると「スーパー・エルニーニョ」と呼ばれる極めて強い勢力に分類され、通常よりも数倍長く、かつ激しい影響を及ぼす傾向がある。ニューヨーク州立大学の大気科学の専門家、ポール・ラウンドリー教授は、今年は過去140年間で最も強力なエルニーニョ現象になるだろうと述べている。これが現実となれば、世界は記録開始以来、かつてない規模の気温変化と降水パターンの変動に備えなければならないと警鐘を鳴らしている。
 気候変動に対して極めて脆弱な地域の一つであるタイを含むアセアン諸国にとって、スーパー・エルニーニョが実際に発生した場合の影響は多岐にわたる。
 最も明白なのは「旱魃」だ。降水量が大幅に減少する傾向にあり、全国の主要な天然水源やダムの貯水量が低下し、生活用水だけでなく、水を主要な資源とする製造業などの産業部門にも直接的な打撃を与えることが懸念されている。
 特にタイとアセアン地域の重要な経済基盤である農業部門は、極めて強い圧力にさらされる可能性がある。タイ、ベトナム、インドネシアといった世界有数の農産物生産国では、米、サトウキビ、パーム椰子などの収穫量が減少するリスクがある。農産物の供給減は世界市場における食糧価格を押し上げ、結果として世界中の消費者へ連鎖的に影響を及ぼす。スーパー・エルニーニョへの対応は技術だけに頼ることはできず、先回りした水管理、節水キャンペーン、雨季の貯水、さらには水利用の優先順位付けに至るまで、システム全体での備えが引き続き重要になる。
 タイの今年の降水量は平均を下回る見通しだ。気象局は、タイは現在まだラニーニャ現象の段階にあるが、4月中には平常の状態へと移行し、6月から8月にかけて62%の確率でエルニーニョ現象へ転じ、年末まで続くと予測している。HIIは、タイの気温は平年よりわずかに高くなり、降水量は平年を下回る傾向にあると予測した。具体的には、今年の降水量は2012年の1479mmに近い水準になると見ている。これは過去30年間の平均降水量である1500mmを下回る数値だ。これに対し、ラニーニャ現象下にあった昨年の降水量は1816mmだった。地方別では、北部、中部、東部の一部、および南部西海岸では平年より雨が多くなると予測される地域もある一方で、東北部の大部分、東部のチャンタブリ県やトラート県、そして南部の大部分では、降水量が平年を下回ると予測した。
 チュラロンコン大学理学部海洋科学科のスチャナー・チャワニット教授[=写真]は、現在はラニーニャ現象が弱まり、本格的なエルニーニョ現象へと移行する境目にあると説明している。その影響は今年半ばから雨季の終わりにかけて顕著になると予想されるという。「エルニーニョは周期的に発生する自然のサイクルだが、現在より懸念されるのは、地球温暖化との相乗効果によって自然現象がかつてないほど激甚化していることだ。気象はより極端になる傾向にあり、乾燥していた地域は以前より深刻な干ばつに見舞われる一方で、雨の多い地域はより激しい洪水に直面する可能性がある」と述べている。


 一部の地域では気温が40℃を超える可能性があり、降水量は平均を30%以上下回る見通しだ。こうした変化は、雨水や天然水源からの水に主に依存している農業部門に直接的な打撃を与える。また、製造業、水産養殖、水力発電といった大量の水を必要とする活動は、ダムの貯水量が平年を下回れば、制限を余儀なくされる可能性がある。
 同教授は、影響は陸上にとどまらず海洋にも及ぶと指摘する。海面水温の上昇は広範囲にわたるサンゴの白化現象を引き起こす可能性があり、これは海洋生態系の衰退を告げる警鐘となる。サンゴ礁は多くの海洋生物の生息地であり、サンゴ礁が損傷すれば、食物連鎖や生物多様性、さらには海洋観光による収入にも影響が及ぶ。「現在は有性生殖や無性生殖によるサンゴの増殖・再生の試みが行なわれているが、サンゴの成長は年間わずか2〜3cmと非常に遅い。そのため、再生には数年から数十年の長い年月を要する」と懸念を示した。
 湿地帯の学術研究の専門家でもある河川・権利財団のハーンナロン・ヤオワルート副理事長は、タイの重要な問題はダムの貯水量だけではなく、大規模な灌漑システムに偏った治水管理の構造にあると指摘している。一方で、多くの農地は依然として小規模な天然水源に依存しているのが実情だ。
 「現在、ダムの貯水量は容量の半分程度あるとみえるかもしれないが、実際に利用可能な水量(有効貯水量)に絞ってみれば、その一部に過ぎないことがわかる。灌漑区域外にある膨大な農地は、依然として水不足のリスクにさらされている。エルニーニョ現象の影響で、小規模水源は通常よりも早く干上がってしまう可能性がある。特に、東部や南部の果樹園など、主要な灌漑システムに含まれていない小規模農家への影響が懸念される」と話している。
 ハーンナロン氏は、過去の旱魃対策が水源の浚渫(しゅんせつ)や新規プロジェクトの建設に偏っていたと指摘する。しかし、湿地帯の浚渫によって自然の通水構造が変化したり、雨水の流れを遮る土手を作ったりするなど、生態系に悪影響を及ぼした事例も少なくない。多くの湿地帯は、貯水池、漁場、生物多様性の拠点としての役割を担っている。これらが破壊されれば、長期的にコミュニティの食糧安全保障に影響が及ぶという。同氏は、「渇水(水不足)・洪水・汚水」という「3つの水害」を体系的に管理する考え方へと転換しなければならないと主張する。あわせて、地域レベルでの天然水源の保全を推進し、コミュニティがより自立できる体制を整えるべきだと指摘した。
 自然災害と気候変動の専門家であるタナワット・チャールポンサクン教授は、エルニーニョに関する長期予測データの解釈には慎重であるべきだと提言している。一般的な気象予報の精度は通常3か月先までであり、1年あるいは数年単位の予測は誤差が大きくなる傾向にあると指摘している。「過去の教訓を振り返ると、タイは数年にわたってエルニーニョに見舞われると予測されていたにもかかわらず、実際にはラニーニャ現象が発生し、激しい雨と洪水が続いた例がある。これは、多くの要因に影響される地球規模の気候システムの複雑さを反映している」と語った。
 タイは太平洋とインド洋の中間に位置するという地理的特性を持っているため、気象パターンはエルニーニョだけに左右されるのではなく、インド洋の諸現象からも影響を受けるとも付け加えた。旱魃が予想される時期であっても雨が降る可能性があるという。
 タナワット教授は、「地球温暖化の影響下では、エルニーニョとラニーニャのパターンはより激甚化・頻発化する傾向にあり、長期予測はかつてないほど困難になっている。タイはリアルタイムの監視システムを開発すべきで、政策決定の精度を高めるために米国、日本、欧州、そしてアジア諸国の複数の情報源を活用すべきだ」とも提案した。

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