SCB・EIC=経済成長率を2.0%へ上方修正
SCB・EICは、2026年のタイの経済成長率見通しを2.0%へ上方修正した。中東情勢の改善を受けてエネルギー価格が下落し、旅行コストの軽減や観光業の回復を後押しするほか、輸出や一部産業での設備投資も堅調に推移していることを反映させた。一方で、タイ経済は今後減速するとの見方を示した。中東情勢が緊迫していた時期に上昇したエネルギー価格や原材料価格が、生産コストやインフレ、家計の購買力に徐々に波及すると予想されるためだ。

政府による4000億バーツ借入緊急勅令に基づく景気対策が下支え要因となるものの、景気の回復は引き続き「K字型」となり、恩恵は一部の産業に偏る見通し。特に輸入比率の高い電子産業は堅調な一方、低中所得世帯や中小企業(SME)は、所得の伸び悩みと高水準の債務負担から依然として脆弱な状況が続くと分析した。
2027年の成長率は1.9%と予想した。新たな成長エンジンの不足に加え、金融引き締め環境や海外経済の不透明感が引き続き成長の重荷になる。
◆中東情勢改善が短期的な追い風
SCB・EICは、中東情勢の緊張緩和がタイ経済を短期的に下支えする一方、エネルギー価格や生産コストの上昇による影響は今後も徐々に経済へ波及するとの見方を示した。
原油価格は戦争前の水準を上回っているものの下落基調にあり、企業活動への負担は軽減しつつある。特に旅行コストの低下を受けて観光業の回復が期待されるほか、電子産業を中心とする輸出や海外直接投資(FDI)も引き続き堅調に推移している。
一方で、戦争激化時に上昇したエネルギー価格や生産コストの影響は実体経済へ徐々に波及しており、第2四半期以降、経済活動への下押し圧力が一段と強まる見通しだ。
SCB・EICは、こうした影響が主に3つの経路でタイ経済に及ぶと分析している。
第1に、エネルギー価格や生産コストの上昇がインフレや生活費を押し上げ、家計の購買力を低下させるほか、エネルギーや物流への依存度が高い企業を中心に収益を圧迫する。
第2に、世界経済の減速に伴い海外需要が弱まり、特に戦争の影響を受ける市場向け輸出が鈍化する。また、これまでの高いエネルギー輸入価格に加え、資本財輸入の増加により、貿易収支と経常収支は今年悪化する可能性が高い。
第3に、金融市場や資本移動の不安定化を背景に金融環境が引き締まり、リスクプレミアムやイールドカーブが上昇することで、資金調達環境が厳しくなると予測した。
◆景気回復の二極化鮮明に
SCB・EICは、タイ経済の回復は「K字型」の傾向が一段と鮮明になると見積もった。成長を牽引するのは大企業や、AI、データセンター、電子産業、デジタルインフラといったテクノロジー関連分野で、設備投資や一部輸出の拡大が追い風となっている。しかし、これらの産業は輸入依存度が高いため、国内サプライチェーンへの波及効果や雇用、所得の押し上げ効果は限定的と分析した。
一方、低中所得世帯や中小企業は、所得回復の遅れに加え、生産コストや生活費の上昇、高水準の債務負担が重荷となり、依然として脆弱な状況が続いている。
その結果、個人消費の回復は限定的にとどまり、国内需要に依存する小規模事業者や一部サービス業では、売上高や資金繰り、債務返済能力への圧力が続く見通しだ。
SCB・EICは、企業や家計の回復格差が今後もタイ経済の成長を制約する重要な要因になると指摘した。
◆金融政策の余地は限定的
SCB・EICは、タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)が2026年を通じて政策金利を年1.0%に据え置くとの見通しを示した。
足元のインフレ圧力は主としてサプライサイドの要因によるもので、家計や企業の中長期的なインフレ期待も安定していると分析した。また、中東情勢の緩和によるエネルギー価格の低下を受け、2026年の平均インフレ率見通しを従来予想から2.6%へ引き下げ、目標レンジ内に収まると予測している。
タイは高水準の外貨準備高を維持するなど対外安定性が高く、一部の近隣諸国のようにインフレや通貨安への対応として利上げを急ぐ必要はない。
一方、政策金利は低水準にあるものの、金融環境全体は依然として引き締まった状態が続いている。特に個人や中小企業は、所得の伸び悩みに加え、金融機関が債権の質や返済能力の低下を警戒して融資姿勢を慎重化していることから、資金調達環境は厳しい状況にある。
SCB・EICは、今後は債務者支援策やSMEの資金調達環境改善に加え、所得創出力を高める施策を組み合わせることが、流動性を確保し、景気を下支えするうえで重要になると指摘した。
◆企業にコスト圧力
SCB・EICによると、タイ企業は戦争前を上回る高いコストやサプライチェーンの混乱、回復が二極化する需要に直面しており、多くの企業で売上高や利益率、資金繰りへの圧力が強まっている。需要が弱々しいため、多くの企業はコスト上昇分を販売価格へ十分に転嫁できない状況にある。
今後は企業間の業績格差がさらに拡大すると予想した。大企業と中小企業の差に加え、コスト削減や生産性向上を進め、成長するサプライチェーンや世界的な構造変化に対応できる企業は、引き続き成長を維持できる見通しだ。一方で、コスト上昇や需要変動のリスクには引き続き注意が必要だ。
成長機会は、AIや海外直接投資、世界的なメガトレンドに関連する分野に集中すると分析した。具体的には、電子産業、データセンター、クリーンエネルギー、食品、ヘルスケアなどを、新規投資や技術革新、生産拠点の移転、消費者行動の変化を追い風に成長が期待される分野に挙げている。
SCB・EICは、タイ企業に対し、生産性向上やコスト構造の見直しを進め、新たなサプライチェーンへの参画を急ぐことで、不透明な世界経済のなかでも競争力を高める必要があると提言した。
◆世界経済は減速見通し
世界経済の成長率は2026年2.5%、2027年2.6%と予測した。AI関連投資が引き続き成長を支え、電子産業の生産拠点となる国々はその恩恵を受けるとみている。
中東情勢は改善の兆しが見られるものの、不確実性はなお高い。今後は、米国の通商法301条に基づく追加関税措置の動向が、2026年後半の世界貿易における最大のリスク要因になると分析した。
金融政策については、主要国の中央銀行はインフレ抑制を優先すると予想した。米連邦準備制度理事会(FRB)が2026年中は金融緩和に転じず、政策金利を年3.5~3.75%で据え置くとの見方を示している。
各国の国債利回りが高水準で推移するため、世界の金融環境は引き続き引き締まった状態が続くと予測した。
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