2025年1月27日(月)号

ダボス会議で世界に投資呼びかけ=農業・食品、ソフトパワーを強調

 世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)出席のためスイスを訪問したペートンターン首相は1月23日、タイ戦略対話(CSD on Thailand)で、タイのビジョンと政策について民間企業の経営者たちと意見交換した。農業、ソフトパワー、持続可能な産業の強みを生かして投資を呼びかけ、自由貿易を進めていくと強調した。


 首相はダボス会議に初めて参加できたことに感謝の意を表したうえで、この会議が世界の思想に大きな影響を与える人々が集まる場で、タイの経済機会をアピールする重要な場になると述べた。東南アジア地域の戦略的な立地に加え、域内2位の経済規模を誇り、世界標準のインフラや工業団地を備えていることをアピールした。
 タイは、①農業と食品分野、②クリエイティブ・エコノミー(ソフトパワー)、③持続可能な産業という3つの強みに基づいて成長を続けていくとした。
 豊富な農業資源を有し、「世界の台所」として多くの農産物や食品を生産、輸出している。こうした農業の強みを生かし、AIやロボット技術、精密農業を利用して農業のイノベーションを進める考えを示した。品質を向上させ、廃棄物を削減し、生産性を最大限に高めることを目指していると語った。また、農業の将来を見据え、より柔軟で持続可能で、未来に向けて準備が整うような形に進化させていくとした。食品産業においてもイノベーションを進め、タイのレストランの提供する料理が美味しいだけでなく、持続可能で健康に配慮したメニューを創作できるよう支援する。
 ソフトパワーでは、タイは観光業に大きな強みを持っており、世界中の旅行者に人気の目的地になっている。豊かな文化遺産と美しい自然環境から、世界的に有名な観光地になっているよ訴えた。首相はタイを「ストレス解消のための目的地」と位置づけた。観光を通じて世界中の人々がリフレッシュし、思い出を作り、エネルギーを補充する場所としての魅力を提供していく。医療やヘルスケア産業も経済成長を牽引する重要分野に位置づけた。
 バイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済の推進や環境に優しい技術の導入に注力していることも示した。EVやデータセンターなど、未来の産業基盤を構築する。2040年までに電力の過半を再生可能エネルギーにする目標があり、特に太陽光、風力、バイオマス・エネルギーの活用に取り組んでいると紹介した。
 首相はタイ経済の強化に向けた重要な要素として、①デジタル経済の発展、②国際貿易と国際的な関係の強化、③貿易自由化と投資の促進を挙げている。デジタル経済では、デジタルインフラの拡充を進め、特にフィンテックや先進技術分野で、企業が世界で競争できるような環境を整える。クラウドサービスや半導体産業などの高度技術産業を誘致し、企業のイノベーションを支援する。デジタル経済の発展を支えるため、教育や技術開発を促進するプロジェクトを進め、国民のデジタルスキルの向上を図る。
 タイはOECD(経済協力開発機構)への加盟を目指し、国際標準の達成に努めている。「サイアム外交」と呼ばれる独自の外交スタイルを維持しつつ、主要国とのバランスを保ちながら経済協力を進める。また自由貿易協定(FTA)を通じて世界各国との結びつきも強化していく。23日には欧州自由貿易連合(EFTA)とFTAを締結した。
 自由貿易と開かれた貿易環境の整備も進めている。今年はEUや韓国とのFTA交渉を加速させる考えを示した。

◆ソフトパワーをアピール
 首相は23日に開催されたBetazoneセッション「Not Losing Sight of Soft Power」に参加し、タイのソフトパワーをアピールした。
 セッションの進行役のヤナ・ピール氏は、タイの最年少女性首相として歴史を作ったペートンターン氏がタイで最も影響力のある100人の女性に選ばれたことに触れながら、タイのソフトパワーに関するディスカッションの開始を告げた。タイがどのようにして世界中の人々の心をつかみ、経済成長の原動力となる「ソフトパワー」を展開しているのかが紹介された。タイの成功例として、食文化、映画、観光、健康などの分野が取り上げられ、特に現代アーティストのルークリット・ティラワニット氏や、国際的に認められた映画監督のアピチャートポン・ウィーラセータクン氏、世界的に有名なアーティストであるBLACKPINKのリサさんが紹介された。
 首相は、ソフトパワーが現在の世界経済において重要な役割を果たしていると指摘し、タイは豊かな文化遺産を持ち、世界中に知られている強力なソフトパワーを活用していると述べた。政府が①観光②食文化③映画④ファッション⑤フェスティバル⑥スポーツ⑦音楽⑧芸術⑨デザイン⑩ゲーム⑪文学⑫健康⑬パフォーマンスアートの13の重要分野を定め、これらを強化し、国の競争力を高めていく方針を示した。
 政府は民間企業の活動をサポートする「ファシリテーター」として、経済活動の推進と新たな協力機会の創出を支援する。首相はこの日、ノンブアラムプー県産のコットンを使った衣服を着用して、手工芸品をアピールした。
 ソフトパワーの推進について、次の重要な分野を取り上げた。
 (1)観光業。タイ人の親しみやすさ、友好的な性格が観光客を惹きつけており、タイは「微笑みの国」以上の魅力を提供している。コロナ後に観光業は再び回復し、GDPの20%を占めるに至っている。タイにはバンコクの現代的な都市、プーケットのビーチリゾート、チェンマイの文化的な魅力など、各地に独自の観光資源がある。
 (2)ヘルスツーリズム。タイマッサージや筋肉の痛みを和らげる施術法があり、世界標準のヘルスケア施設があり、リハビリやリタイア後の療養地としても人気がある。
 (3)ムエタイ。世界中で6000か所のジムがあるムエタイは、タイの伝統的な格闘技術として世界的に知れ渡っている。政府はムエタイの普及と認証制度を支援している。
 (4)タイ料理。タイ料理もタイを訪れる者に多くの体験を提供している。トムヤムクンは、ユネスコの無形文化遺産に登録された。
 (5)フェスティバル。タイは年間を通じて数多くの祭りを開催しており、特に4月のソンクラン祭りは観光客を惹きつける重要なイベントになっている。
 首相は外国の映画やドラマ制作でタイに撮影チームを誘致する施策を進めており、キャッシュリベートを導入することで、国際的な映画産業の促進を図っていることも示した。
 首相は「一家に一つのソフトパワー」を目指し、タイの人々が自らの才能を発揮し、国を支える力になるよう支援するソフトパワー政策を示し、25年はタイにとって「機会の年」で、多様なソフトパワーを活かして世界とのつながりを強化すると語った。

 ペートンターン首相は23日も精力的に有力企業の経営幹部や要人と会談した。

◆アマゾン・ウェブ・サービス
 アマゾン・ウェブサービス(AWS)のマット・ガーマンCEOとの会談では、タイのデジタル経済への移行に対する支援、タイ人の技術スキル向上に対する支援、AWSがタイにデータセンターを設けたことに謝意を示した。タイのデータセンターはAWSアジア太平洋(タイ)リージョンとして機能している。首相はデジタル技術やAIの活用を重要政策に位置づけ、「デジタル政府」や「デジタルウォレット」アプリの開発を通じて、行政事務手続きの簡素化やペーパーレス化を推進していることを伝えた。クリーン・エネルギーの推進でも外国企業にとって魅力的な投資先になることを目指していると語った。
 ガーマンCEOは、タイ政府が自社のタイへの投資を支援し続けていることに感謝し、タイのデジタル経済への移行に貢献できることを喜ばしく思うと述べた。タイの主要大学と提携し、デジタル技術やAIスキルの向上を支援するプログラムを実施していることを伝えた。タイは投資に適した環境を備えており、タイ政府や民間企業によるクラウド、デジタル、AIへの投資が進むことで、さらなる投資の誘致が期待できるとの見方を示した。

◆サントリー
 23日午後5時半にはサントリー・ホールディングスの新浪剛史社長と会談した。新浪氏は、サントリーがタイを重視し、環境に優しいリサイクル可能なプラスチックボトルの生産で追加投資を検討していると明らかにした。
 首相は、民間企業の投資を支援する準備が整っていることを強調し、「ビジネスのしやすさ(Ease of Doing Business)」政策の下、投資家が直面する煩雑な手続きの簡素化を進め、タイでのビジネスや投資を円滑に進められるよう政府が全面的にサポートしていると伝えた。

◆タイ・アルメニア首脳会談
 首相は23日、アルメニアのニコル・パシニャン首相と会談し、両国の関係強化について話し合った。アルメニアがタイとユーラシア経済連合(EAEU)のFTA交渉開始を支持してくれたことに感謝の意を表した。アルメニアはEAEUの加盟国。
 両首脳は相互のビザ免除協定の交渉を進めることでも合意した。

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