鉄鋼10団体が工業相に危機訴え=輸入急増で稼働率27%台
5月25日、タイ熱延鋼板協会のナーワー・チャンタナスラコン名誉会長[=写真上]率いる鉄鋼業界10団体の代表が工業省を訪問し、鉄鋼産業が直面する深刻な状況について、ワラーウット・シラパーアーチャー工業相に打開策の早期導入を直訴した。世界の鉄鋼生産能力は過剰な状態が続いているなか、低価格な鉄鋼製品の輸入増に歯止めがかからない。タイ国内のサプライチェーン全体が深刻な打撃を受けているとして、早急な対応を求めた。

10団体には510社以上が加盟し、約5万1000人を直接雇用している。代表団は、鉄鋼産業が建設、自動車、機械、家電、食品パッケージなど川下産業を支える基盤産業であり、重要な原材料供給源であることを改めて強調した。
タイは鉄鋼輸入への依存度を高めている。国内の年間需要が約1650万~1800万㌧に達するのに対し、国産品使用量は年間650万~700万㌧にとどまっている。その結果、設備稼働率は世界平均75%を大きく下回る27.9%まで低下しているという。
代表団は危機打開に向け、3本柱の対策(計8項目)を工業省に提言した。
第1の柱は「鉄鋼産業の構造調整措置」。熱延鋼板、線材、鋼管、構造鉄鋼、ステンレス鋼など、生産過剰問題を抱える製品群について、工場新設や生産能力の拡張を禁止するよう求めた。投資については、生産能力を増やさない効率化や品質向上分野に限定して認めるよう要請した。
また、誘導炉(インダクション・ファーネス:IF)を用いる異形棒鋼工場への規制強化も提案した。規格外鉄鋼の市場流通を防ぐため、技術実証、品質管理プロセス、鉄鋼純度について、タイ工業製品規格事務局(TISI)技術委員会の審査合格を義務付けるよう求めた。
これに対しワラーウット工業相は、生産過剰問題を緩和し国内鉄鋼産業の安定性を維持するため、熱延鋼板産業における工場新設や生産能力拡張を禁止する布告に、すでに署名済みだと説明した。また、工業省は、IFシステムによる鉄鋼生産における品質への懸念を認識しており、国内工場を電炉(EAF)方式へ転換させる方針を掲げていると強調した。今後は、適切な転換方法や期間を検討するとともに、安全性確保や工業規格適合の観点から、用途別にIFシステム製工の鉄鋼の使用制限を見直す方針を示した。
第2の柱は「国産品・国内産鉄鋼の使用拡大策」。規格逃れを防ぎ、タイの工業部門への悪影響を阻止するため、鉄骨構造加工品(ノックダウン製品など)の規制を求めた。また、国内付加価値や雇用創出を拡大するため、官民連携(PPP)事業やBOI投資認可案件において、「Made in Thailand(MiT)」制度を活用し、国産品や国産鉄鋼を一定比率以上使用する義務化も提案した。
商業省による通商救済措置、すなわちアンチダンピング(AD)措置、緊急輸入制限(セーフガード:SG)措置、迂回防止(AC)措置についても支援を求めた。
第3の柱は「環境対応とグリーン・スチール高度化に向けた支援策」。クリーンテクノロジーへの投資を後押しし、国のネットゼロ目標を支援するため、「グリーンギルド(環境ラベル)レベル4~5プラス」の導入を提案した。低炭素鉄鋼産業に向けた原材料の安全保障強化策として、鉄スクラップの国内利用の確保を要請した。さらに、サーキュラーエコノミーを拡大し、国内リサイクル原材料を増やすため、使用済み自動車の処理・リサイクル産業への支援も提案した。
工業相は、政府がネットゼロ達成目標を従来の2065年から2050年へ前倒しする方針を掲げていると説明した。タイの工業の競争力向上に向け、事業者に環境対応、クリーンテクノロジー投資、温室効果ガス削減への取り組み加速を求めた。
また商業省との協議を通じ、原材料輸入への依存度を引き下げ、タイの鉄鋼産業の原材料の安全保障を強化するため、鉄スクラップの国内向け確保を強化する方向で一致したことも明らかにした。特に低炭素鋼生産では、鉄スクラップが環境配慮型の次世代製鉄プロセスにおける重要原材料となることから、国の長期的なグリーン産業政策やネットゼロ目標とも一致すると説明した。
代表団は、タイの鉄鋼産業をグリーン・スチールへ転換し、長期的な国の競争力を高めるため、政府に協力する用意があると改めて表明した。そのうえで、「強固な鉄鋼産業こそが、タイの産業・経済の安全保障を支える重要基盤だ」と強調した。
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